研究課題/領域番号 |
14J09334
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
阪本 佳郎 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | ルーマニア文学 / 亡命文学 / シュテファン・バチウ / 越境文化論 / 文化混淆論 / ダダ・シュルレアリスム |
研究実績の概要 |
本年度は、ルーマニア亡命詩人シュテファン・バチウの彷徨の人生とその詩の変遷が、越境と混淆、流動を旨とする20世紀文学において如何なる価値をもつのかを明らかにすべく、研究を進めた。4月~9月にはルーマニアのクルージュ・ナポカ、9月~3月にはスイスのチューリッヒにおいて在外研究を行った。いずれもバチウの亡命先の都市であり、詩人についての同地にしかない文献資料を入手・渉猟することができた。在外研究の成果として以下の業績があげられる。バチウとも個人的親交のあった詩人管啓次郎によるエッセー「ワイキキのジョルジュ――ホルヘ・ルイス・ボルヘス」(『コヨーテ読書』所収)をルーマニア語訳し、同国の代表的文学誌『星』Steaua,2015年5・6月合併号に投稿。掲載・出版された。また同号において、管による詩群Agend'Arsより抜粋した詩をルーマニア語に翻訳し投稿、掲載された。同国の文化的特異性を探るためのフィールドワークの成果として、『トランシルヴァニアをめぐる詩的地理学』と題した小論をルーマニア語で執筆、『星』2015年9月号に掲載、出版された。また、ドナウ川最下流域の都市スリナのフィールドワークにおいては、採取した同地の伝説や言い伝えをもとにルーマニア語で執筆した文章「投瓶通信と白髪の少女」と「光の橋」が文学誌『星』(10月号、11月号)に掲載・出版された。2015年10月より翌年3月まで、スイス・チューリッヒ工科大学と日本学術振興会の間で実施された「日本・スイス若手研究者交流プログラム」に参加。チューリッヒ大学ロマンス語圏学科のクリスティーナ・フォーゲル教授との共同研究は、バチウのテクスト読解と議論を中心に行われた。その成果を「沈黙の祖国――シュテファン・バチウの『千を越える四行詩』」(日本語にて執筆)、「ルーマニアの群島詩人シュテファン・バチウ」(英語にて執筆)という二つの論文にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①当初計画において設定されていた博士論文執筆の前提となる文献資料・調査において、予定通りの成果をあげることができた。ルーマニアにおける在外研究において、各地に散在したシュテファン・バチウの著作、その文学に関する資料を収集することができ、また彼の知人(彼の著作を刊行していたアルドゥス出版の編集者たち)やその文学を継承しようとする人々(シュテファン・バチウ記念館やルーマニア作家協会)を訪ねインタビューを行うことができた。現代アメリカ文学の代表的詩人アンドレイ・コドレスクともルーマニアにて出会い、個人的親交を結ぶことができた。ルーマニアの亡命詩人である彼からは、バチウはじめ数多くの詩人について詳細かつ有益な情報を得ることができた。ルーマニアの文化的特異性を理解するための各地へのフィールドワークも予定通り実施することができた。10月から行われたスイス・チューリッヒ大学での共同研究は、バチウのスイス時代についての資料収集を可能にし、バチウ作品についてより深い読解を促すものとして大変貴重なものであった。 ②それら一連の研究の成果を継続的に執筆、発表することができた。ルーマニアでの在外研究の成果は、文学誌『星』Steauaに連載され、これらの文章は、ルーマニアの外部からルーマニアの土地・文化景観を論じたものとして、同地にはこれまで見られなかった文化表象のあり方を提示している。その意味で、同国の亡命文学受容においても価値あるものと考えている。スイスにおける共同研究の成果として二本の論文を執筆することができた。それがきっかけとなり2016年6月12-15日にスイスにて行われる国際シンポジウ Ecole d'ete-Polyphonies Romanes-に招待され、報告することとなった。本報告は忘却された亡命者たちの文学をルーマニア外部において紹介することのできる貴重な機会となるはずである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、亡命者たちの亡命途上における文学的実践と、それがいかに亡命先の文学的感性と交渉・融合していたのかについてより踏み込んだ分析を試みる。彼の亡命先ハワイでの調査、ルーマニアでの補足調査を経て、文献資料の読解分析を終え、博士論文執筆を進める予定である。 4月末から5月末にかけてシュテファン・バチウの亡命先であったハワイで在外研究を実施。当地でしか手に入らない書物や雑誌、手紙などの個人的資料を閲覧・渉猟する。同地ジャン・シャルロット・コレクションに、膨大な資料が収められているので、そこでの調査を拠点に、研究を進める。またバチウと親交のあった人々にインタビューを実施する。またバチウの詩世界を大きくかえたハワイの文化的混淆性・神話性・土着文化の価値・自然世界から得られる詩的感性を理解するため、文献の渉猟、現地知識人へインタビューを試みるとともに、フィールドワークを行う。6月には、スイス・チューリッヒ大学の主催する、前述の国際シンポジウムに招待されており、「詩の国際便Mele―シュテファン・バチウの描く<詩の親密圏>」と題する発表を行う。7月には上記発表をもとにした論文を執筆。本論文は、ルーマニア亡命者たちのバチウ文学を介した詩的交流を明らかにするもので、博士論文の骨子たる部分となる。10月には、再度補足調査のためルーマニアのクルージュ、ブラショフ、ブカレストに滞在。クルージュでは、ダダ誕生100年を記念してなされるシンポジウムで、「ルーマニア亡命詩人アンドレイ・コドレスクのダダ」と題した報告を行う予定である。年末にかけては、古代ローマの詩人オヴィディウスが、ルーマニア亡命文学にいかなる詩的霊感を与えてきたのかを考察した「オヴィディウスの末裔たち」という論考を執筆する予定である。年度末には、それまでの論考をまとめ、それをもとに、博士論文の執筆をすすめていく。
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