研究課題/領域番号 |
14J09334
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
阪本 佳郎 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2018-03-31
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キーワード | 亡命と越境の文学 / 旅の詩学 / ルーマニア文学 / 戦後ハワイの文化・芸術 / 詩と記憶 / 全体主義と文学 |
研究実績の概要 |
当該年度は、前年度までの文献資料調査において不十分であった部分を補足するための追加調査と、博士論文の執筆に集中した。研究実績としては、2016年6月12日~15日にスイス・ルツェルン州ヴィツナウで行われた国際シンポジウム「ロマンス諸語の多言語交響」(チューリッヒ大学ロマンス語圏研究科主催)において、口頭発表を行ったことがあげられる。ルーマニア亡命詩人の系譜を描こうとする本研究の中心的課題である「亡命詩人シュテファン・バチウの文学と生涯」について概説を述べ、詩人が亡命の終着地ハワイにおいて創刊し四半世紀にわたって世界の各地域へと届けた文学誌MELEに焦点を当てながら、その文学における海を越えた詩の連帯、文化混淆性・越境性、複数言語の交響性について考察を展開した。世界文学上、顧みられるべきその価値にもかかわらず、彼の文学はこれまでまったくといっていいほど論じられていない。それを詩人最初の亡命地であるスイスで、彼もしばしば訪れていたというルツェルン湖を臨みながら、ヨーロッパのみならず南北アメリカ・アジアの多彩な地域から優れた研究者の参集するこの機会において紹介できたことの意義は大きいものと考える。バチウのブラジルをはじめとするラテン・アメリカ亡命時代について調査する際の協力の申し出を南米文化・芸術の研究者たちからうけたことも、今後の研究において非常に大きな収穫であった。 また、2016年4月-5月にかけて、ハワイに調査滞在し、シュテファン・バチウのホノルルにおける生について明らかにすべく、文献資料の収集と存命である詩人の知人へのインタビュー調査を行った。この忘れ去られた詩人の生涯についてハワイ大学の自伝研究センターと議論できたことは、同地の戦後人物史研究の進展にささやかながらの貢献ができたもの想う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の目標は博士論文の執筆・脱稿・提出であったが、本年度は見送り、次年度以降の提出とした。理由は二つあり、ひとつは育児に伴う研究中断である。もうひとつは、博士論文執筆のために、2017年9月よりハワイ大学マノア校における二年間の研究滞在の機会が与えられることとなったからである。博士論文において主として取り扱うルーマニア亡命詩人シュテファン・バチウは、最後の亡命地ホノルルに於ける文学活動を通じて、戦後ハワイを代表する詩人ともなった。ルーマニアから各地へ亡命した詩人たちの文学、そして亡命の旅において出遇った各地の詩人や作家の文学を、ハワイにおいて相互に接続しながら、独自の文化混淆的・越境的な詩のネットワークをつくったバチウを研究する上で、ハワイは最適の場所である。実際、2016年4-5月にハワイにおける調査滞在を行ったが、見通すべき文献資料の膨大さ、インタビューすべき関係する人物の多さ、その連絡の困難さから、一ヶ月という調査時間は不足に過ぎるものと感じざるをえなかった。同地における再度長期の研究滞在を望んでいたところハワイ大学マノア校に客員研究員として受け入れられることとなった。同校はバチウがラテン・アメリカ文学の教授を勤めていた場所でもあり、彼の文学を知るに最も相応しい場所であると言える。二年間の研究滞在において、博士論文のクオリティは、格段の向上が見込まれる。 本年度は、博士論文提出は見送られたものの、国際学会における発表実績と、今後のさらなる研究内容の向上が展望されることから、概ね肯定される進捗状況であったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、ハワイ大学マノア校における研究滞在を主たるものとして、以下の様に計画される。まず2017年4月に育児によって中断されていた研究を再開、ルーマニアにて追加資料の調査・収集を行う。9月以降のハワイ大学滞在においては、マノア校ハミルトン図書館にある膨大なシュテファン・バチウに関する文献資料の閲覧・渉猟、加えてハワイにおけるバチウの知人へさらなるインタビューを実施する。彼の生涯と文学の全貌を詳細に浮かび上がらせ、その20世紀文学における価値を明らかにする。 まず、彼が手紙の交換、雑誌の発行を通じて、いかに他の地に逃れたルーマニア亡命詩人との関係性を保っていたのかを調査する。その関係性のあり方を考察し、祖国ルーマニアが彼の文学においていかなる位置を占めていたのかを知る。また彼の詩世界に大きな影響を与えていたハワイ語や同地の神話群、ハワイの土着文化についての研究に取り組み、バチウと厚い親交で結ばれ創作活動を伴にしていたハワイを代表する文化人たち(世界的な壁画家であるジャン・シャルロや写真家のフランシス・ハール)との関係について知見を深めることを目指す。またバチウは、ハワイにおける日系移民の方々とも繋がりがあり、短歌や俳諧などの形式をふまえての創作も頻繁であった。バチウの文学世界とハワイの日系移民文学の接点を探究することも、本研究において企図されている。研究の成果は、受入先であるハワイ大学英語・英文学研究科の伝記研究センターを通じてシンポジウムや学会発表の機会を利用し、逐次、報告をしていく予定である。研究滞在の二年間のうちに博士論文を脱稿・提出する予定である。
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