今年度の研究では前年度までの研究を発展させ、3次元の疑似仮想(VR: Virtual Reality)空間において意思決定の仕組みについて調べた。このような実験系を用いることにより、霊長類の脳が適応してきた自然の状況に近い形でこの現象を調べることができると考えた。 サルを用いた研究でこのようなVR空間を用いた実験を行うことは、まだ非常に新しい試みでありその実験手法もまだ確立していない。今年度の研究ではまずこの実験系の確立を目指した。この目的のため専門的なプログラム技術を持つ技術者を探し出すことから始めた。適任の技術者を探し出した後、共同して基礎となるプログラムを作り上げることから始めた。サルを用いた実験系、特にその訓練の段階に対して適切かつ柔軟な環境を作り上げるため、このプログラムはなるべく自由度が高いものになるようにした。実際のプログラムの開発の作業では、サルの行動をあらかじめ予想してそれに対応できるような自由度を確保できるように技術者との意思疎通を行った。またジョイスティックを用いる基礎的な訓練が終わったサルからの、実際のVR環境への反応を元に適宜修正や改良を行った。 このような作業過程を経て作り上げたVR環境を用い、次の研究段階では実際にサルを用いてそのVR環境下での行動のパターンを調べた。最初に用いたVRの実験環境ではげっ歯類の実験でvicarious trial and errorが観察された8の字型の迷路を再現した。げっ歯類の実験では、迷路の分岐点の場所で動物が分かれ道の片方からもう片方へと向きを代わる代わる変えるような行動が観察されていた。興味深いことにサルのこのVR環境下での実験においてもこのような行動を観察することができた。このような種を超えた意思決定を行う際の行動は、その基盤となる神経のメカニズムに共通した機構が存在することを示唆している。
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