遺伝情報を担うDNAは、細胞内外からのストレスにより、絶えず損傷を生じる。中でも塩基の脱アミノ化は最も頻発するDNA損傷の一つである。脱アミノ化部位の修復が行われなければ、遺伝情報の変化・損失を招く。そのため、すべての生物はDNA修復機構を有し、遺伝情報の恒常性維持に努めている。これまでの我々の研究においてDNA修復に関与すると考えられる新規の酵素、Endonuclease Q (EndoQ)を超好熱性アーキアより発見した。 EndoQは配列上、アーキアのThermococcales属と一部のメタン生成菌に保存されているが、一部の真正細菌にも保存されている。そこで、常温性メタン生成菌(Methanosarcina acetivorans)と真正細菌(Bacillus pumilus)由来のEndoQを生化学的に機能解析を行ったところ、これらはEndoQの活性を示した。つまり、EndoQが一部のアーキアと一部の真正細菌において機能的にDNA修復に関与しうることが明らかになった。 さらに、EndoQはすでに報告されている修復タンパク質と一部基質特異性が重複するため、ゲノム配列上にEndoQを含む複数の脱アミノ化塩基修復タンパク質を有するMethanosarcina acetivoransを用いて、細胞内脱アミノ化塩基修復経路の役割分担を調べた結果、このアーキアが各脱アミノ化塩基に対して複数の酵素活性を保持していることが明らかになった。さらに、アーキアにおける修復遺伝子の分布解析により、それらは個々に独立した系で修復に関与することが示唆された。 以上の結果をもとに、極限環境下というDNA損傷が起こりやすい環境に生息する生物、あるいはDNA損傷の頻度が高い環境下の初期の生命体が、遺伝情報を保持するためにどのように特有の機構を獲得してきたのかに関して洞察を行った。
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