研究課題/領域番号 |
14J09358
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柴田 基洋 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | スキルミオン / ローレンツ電子顕微鏡法 / 応力 / DM相互作用 / カイラル結晶 / シミュレーション / 歪み / 磁性 |
研究実績の概要 |
空間反転対称性のない結晶構造を持つ一部の磁性体では、スキルミオンと呼ばれる渦状のスピン構造体が発現する。スキルミオンは、その特徴的な構造に由来する高い安定性や異常な電気輸送特性、低電流密度での高い駆動性など強磁性や反強磁性といった通常の磁気構造では見られない様々な特徴を有するため、学理・応用の両面で注目されている。本研究では、スキルミオン及びそれらが規則的に整列したスキルミオン結晶を様々な条件下で実空間観察することにより、スキルミオンの性質を調べ制御を行うことを目的としている。 これまでスキルミオン結晶の応力応答は、静水圧下の等方的な応力印加についての報告があるのみで、異方的応力については検討されてこなかった。そこで、スキルミオン及びスキルミオン結晶の構造が異方的応力に対して示す変化を調べた。広い温度範囲でスキルミオンが発現するFeGeについて、材料間の熱応力により低温で一軸引張応力が印加される構造を作製し、ローレンツ透過型電子顕微鏡法で実空間観察を行った。スキルミオン結晶の構造と原子結晶の歪みの温度依存性を評価・分析した結果、微小な原子結晶の異方的な歪み(0.3%)により、スキルミオン結晶及び個々のスキルミオンの構造が大きく(15%程度)歪むことが明らかになった。また、磁気構造の大きな歪みの原因として、結晶構造の歪みによりジャロシンスキー・守谷相互作用が変調されたと仮定しシミュレーション・計算を行ったところ、実験を再現する結果が得られた。本成果はカイラルな結晶構造を有する磁性体中のスキルミオンの新たな性質とそれを利用した制御方法を提示するものである。本成果については学会発表と学術雑誌への投稿を行った。 上記に加え、MnSiにおけるスキルミオン形成の結晶方位と膜厚依存性を実空間観察により調べた結果、スキルミオンの安定性への結晶磁気異方性と熱揺らぎの寄与を明らかにできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
異方的な応力がスキルミオンに与える影響について調べた結果、微小な結晶構造に加えられた異方的な歪みがスキルミオンの構造を非常に大きく歪ませることを明らかにすることができた。本成果については国内学会で発表を行ったほか、解析的計算とシミュレーションにより起源の検討も合わせて論文にまとめ、学術雑誌に投稿した。本成果は、カイラルな結晶構造を有する磁性体中のスキルミオンの新たな性質とそれを利用した制御原理を提示するものであり、本研究の目的であるスキルミオンの制御法の確立において重要な進展である。 また、MnSiにおけるスキルミオンの実空間観察を通じ、結晶磁気異方性と熱揺らぎの安定性への寄与を明らかにし、論文を発表した。 上記に加え、ローレンツ透過型電子顕微鏡法によって撮影された磁気バブルのダイナミクスについての統計的解析、試料形状効果や電気測定を目的とした様々な微細試料加工、電子線ホログラフィーを用いた磁気構造の分析など、他の課題も並行実施しており全体として進展は順調である。
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今後の研究の推進方策 |
年度末に着手した電子線ホログラフィーを用いたスキルミオンの定量的な構造分析、及び磁気バブルのダイナミクスに関する分析を継続する。 また、現在にまでに得られた実験や試料加工に関する知見を元に、スキルミオンの外場応答や微細加工試料におけるスキルミオンの形成とダイナミクスのローレンツ透過型電子顕微鏡法による実空間観察を行う。具体的には、絶縁体試料におけるスキルミオンの外場応答の実空間観察などを試みたい。 また、実空間観察と共に、電気測定用微細試料の作製・測定などもスキルミオンの形成やダイナミクスを明らかにする相補的な手段として用いたい。 後半では、最終年度の研究総括として、本研究を通じて得られた知見に基づいてスキルミオンの制御について包括的に検討する。
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