研究課題/領域番号 |
14J09380
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 真大 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | ハロゲン / 希ガス / マントル捕獲岩 / 沈み込み帯 / 水 / 二酸化炭素 |
研究実績の概要 |
沈み込み帯では、海洋プレートが陸側のプレートに衝突しマントルへ沈み込んでいる。ハロゲンや希ガス、水、二酸化炭素などの揮発性物質は、沈み込むプレートに取り込まれマントルへ運ばれている。本研究の目的は、沈み込む物質の最も良いトレーサーであるハロゲンと希ガスを用いてその過程を詳細に解明することである。研究対象は、沈み込んだ成分の情報を最もよく保存していると考えられるマントル捕獲岩を用いる。昨年度までは、海溝に近い火山フロントで産出した試料を研究対象としてきた。今年度は、火山フロントより海溝から離れた背孤側で産出した試料と、沈み込みの影響を受けずプレート内の火山活動により産出した試料を扱った。 マントル捕獲岩中の極微量なハロゲンは、原子炉で試料に中性子を照射し、試料中のハロゲン原子を希ガス原子へ変換し、高感度希ガス質量分析により定量する必要がある。今年度は日本国内での中性子照射は困難であったため、アメリカ・オレゴン大学の原子炉にて中性子を照射し、イギリス・マンチェスター大学にてハロゲン分析を行った。また、同じ試料について中性子照射をしない希ガス分析を、東京大学の所属研究室にて行った。 火山フロントに比べ背弧側では、ハロゲン濃度は低く、マントル起源成分に比べ沈み込み成分の希ガスが少ないことから、海溝から離れるにつれ沈み込みが及ぼす影響が薄まっている確かな証拠を得た。一方で、背弧側の試料には火山フロントと同様なハロゲン組成を示すものもあり、沈み込みの影響が背弧側まで及んでいることを示唆している。プレート内で産出した試料は、中央海嶺玄武岩から推定されたマントルの組成からClに比べBrとIに富むように分別したハロゲン組成を示した。これは、沈み込みの影響を受けていない地域においてもハロゲン組成を変化させるメタソマティズムが起きたことを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的であるマントル捕獲岩の極微量ハロゲン分析には、原子炉での中性子照射が必要不可欠であるが、今年度の日本国内での中性子照射は大変困難な状況であった。今年度は、その中でも現在日本国内で唯一稼働している京都大学原子炉実験所の研究用原子炉での照射を予定していた。しかし、京都大学原子炉実験所の研究用原子炉も定期点検の後、稼働状況が芳しくなく、想定していた数の照射を行うことができなかった。 しかしながら、そのような状況の中でも海外の原子炉での照射とイギリスに滞在し分析できたため、これまでほとんど未知であったマントル捕獲岩のハロゲンについて新たな知見を得ることができた。また、捕獲岩(かんらん岩)を構成する主要鉱物であるかんらん石を分離して分析したり、試料を真空中で破物理的に破砕することでハロゲンや希ガスが濃集する流体包有物のみを分析したりすることにより得られた結果を比較することで、マントル中でハロゲンがどのようなサイトに捕獲されているかが明らかになりつつある。 試料がもともと保持していた希ガスの組成を詳細かつ信頼度高く調べるためには、中性子を照射していない試料の分析が必要であるが、その分析は東京大学の所属研究室にて大きな問題なく進んでいる。 また、来年度以降に取り組むべき課題として予定していたもの以外にも、今年度得られた結果から新たな着想や課題が得られ今後の研究の発展につながることが考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まだ未分析の捕獲岩のハロゲンと希ガスを分析する。特に、現在1地域のみしか結果が得られていない背孤側で産出した試料に重点を置き、海溝からの距離に応じ、マントルへ供給される流体の変化やそれが及ぼす影響の大きさの変動を捉えることを目指す。 これまでの研究では、水や二酸化炭素等の直接は扱っていない揮発性物質の沈み込み過程や、それらが及ぼす影響については、ハロゲンや希ガスの元素組成の違いからその起源を見分けるという定性的な議論しか行っていない研究がほとんどである。議論を定量的なものへと発展させるためには、ハロゲンや希ガスが濃集している流体包有物の主成分である水や二酸化炭素も同時に定量することが必要不可欠である。よって今後は、希ガス同位体分析に用いたシステムに、水や二酸化炭素を定量するための安定同位体質量分析計や四重極型質量分析計を組み込んだシステムを開発し、その評価を行う。 また、ハロゲンや希ガスが濃集する流体包有物について種々の分光法を用いた記載と、ハロゲン、希ガス分析が組み合わされた例も少ない。そこで、これまでにハロゲンと希ガスを分析した試料やこれから分析する試料について薄片を作成し顕微鏡下で観察した後、ラマン分光法により流体の組成や残留圧力等を記載し、それらとハロゲン、希ガス組成の間に関係性を調べる。 背弧側では一部の試料は、火山フロントの試料と同様にIに富むようなハロゲン組成を示したが、それらとは異なりBrに富むような試料もみられ、その組成に寄与している物質や現象についての解釈が現状では困難である。そこで、上記の分光法による流体包有物の記載以外にも微量元素組成を調べそれらの間の関係性を調べる。また、プレート内で産出した試料は、中央海嶺玄武岩から推定されたマントルの組成から元素分別したような組成を示すが、その分別の度合が、微量元素の組成と対応するかについても調べる。
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