研究課題/領域番号 |
14J09387
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
片岡 雅知 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 共同行為 / 利他主義 / 利己主義 |
研究実績の概要 |
本研究は、共同行為について論じる際の問題設定や概念的枠組みを、利他的行為にかんする既存の研究から借りるという方針を立てた。研究計画時には、この方針はあくまで研究のとっかかりを与えてくれるアナロジーにすぎないという認識をもっていたが、本年度の研究により、二つの研究領域はむしろ一つのものとして扱うべきだとわかった。 これまでの利他的行為の研究は、援助行動をもたらす究極的な動機がどのようなものであるかを議論及び実験で解明しようとしてきた。すなわち、人間の究極的な動機は、すべて自己利益を目指すものでしかないのか、それとも他者の利益を目指すこともできるのか、これが問題である。前者のように考え、真の意味での利他的な行為は存在しないとする見解が「利己主義」と呼ばれる。 他方で共同行為の研究でも、明示的な形ではないにせよ、共同行為をもたらす動機のあり方への注目がなされてきたと言える。すなわち、私たちはあくまで自己の利益を達成する手段として他人と共同するにすぎないのか、それとも「私たち」の利益を目指すこともできるのか、これが問われていたのである。前者のように考えるのが「個人主義的」と呼ばれている諸説であり、これは「利己主義」の対応物と考えるべきものだ。 このように、利他的行為の研究でも共同行為の研究でも、「私たちの動機がある重要な意味で自己を超越できるか否か」ということが問題となっていると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、動機のあり方に注目することで、共同行為と利他的行為を包括的に論じる視点をつくる作業が行われた。 まず、利他的行為の研究について、本年度はまず進化論的考察から利他的行為の存在を擁護する議論に焦点を当て、その議論を明確化すると共に、不十分な点を指摘する作業を行った。この成果は「Tokyo Colloquium of Cognitive Philosophy」で発表され、共同行為との比較を踏まえて論文化をすすめている。 また、利他的行為研究では真剣な検討対象となっている「真の利他的行為など存在しない」という立場が、協力行動の研究ではほとんど真剣に取り扱われていないという非対称性の存在を指摘し、このことにより協力行動にかんする実験の解釈が不十分なものとなっていることを明らかにした。これらの論点は、「関東動機づけ研究会」で発表された。 ただし、本年度は研究結果を論文化することはできなかったという点で、進捗はやや遅れていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
援助行動の場合も協力行動の場合も、究極的な動機のあり方を探究しようとするならば、当然ながら「無意識の動機」のあり方が重要になってくる。しかし、言語で内容を報告できない無意識的な動機について、その動機がそもそもどのような内容を持てるものなのか(概念的か、非概念的か)、そもそもその動機はいわゆる「命題的態度」として理解できるものなのかなど、基本的な問題がほとんど問われないままになっている。このため、哲学・心理学双方において、およそあらゆる内容の動機が無意識の領域に措定されているが、これが正当なことなのかどうかの吟味はほとんどなされていない。そこで来年度は、意識と動機の関係について基本的な考察を行っていきたい。
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