研究課題
低高度衛星で観測される放射線帯電子のバースト状降り込み(以下、マイクロバーストと呼ぶ)は、高緯度まで伝搬したコーラスによるピッチ角散乱によって起こると考えられている。一方で、人工衛星で観測されるコーラスは高緯度まで伝搬できない事が示唆されている。ホイッスラー波動による放射線帯の高エネルギー電子のピッチ角散乱を理解するためには、ホイッスラー波動の伝搬特性を理解する必要がある。本研究では、地上―衛星同時観測のデータ解析を行い、ホイッスラー波動が放射線帯電子消失過程に及ぼす影響を解明する事を目指している。名古屋大学の大学院生と共同で行った、地上VLF波動とVan Allen Probesの波動データの同時観測データの解析から、地上-衛星で観測される波動の強度変調や周波数が一致しない場合が大部分であることがわかった。これは、地上に到達できるVLF波動が必ずしもVan Allen Probes衛星で観測されているものではないが原因として考えられる。このため、地上-衛星同時観測に基づいて伝搬特性を議論することが難しい状況にあり、異なるアプローチを検討中である。近年、コーラス波動によるMeV帯電子の内部加速が、磁気嵐時の放射線帯外帯再形成に重要な役割を果たしていることが指摘されている。磁気嵐時の放射線帯電子変動に対して、マイクロバーストによる電子消失が担う役割を調べるために、SAMPEXとVan Allen Probes衛星のデータを用いて放射線帯電子加速と消失のバランスに関しての事例解析を行った。その結果、500 keVから数MeV帯の放射線帯電子が増加するのに対応して1MeV帯の電子の降り込みが増大していることがわかった。このことから、コーラスとの波動粒子相互作用の結果、正味として放射線帯電子は増加する傾向にあることが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
平成27年度の研究では、低高度衛星が観測したMeV電子の降り込みと磁気圏側の放射線帯電子量の増加が密接に関わっていることを新たに見出し、この結果を投稿論文として報告している。また、地上観測から得られたオーロラデータと低高度衛星データの比較と行い、ディフューズオーロラに伴う相対論的電子の降り込みの特定にも成功し、投稿論文として報告を行っている。このような活動から、期待以上の研究の進展があったと判断される。
来年度は、今回の結果の有意性を統計的に示すことを計画している。また、マイクロバーストと放射線帯電子加速の関係性を、テスト粒子計算による数値実験を通して、磁気圏やコーラス波動のパラメータに対する依存性を調査することを検討している。コーラス波動が高緯度に伝搬する条件に関しての調査は滞っているが、マイクロバーストが頻繁に観測される条件をもとに磁気圏の状態を観測データから統計的に調べ、考察していく予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件) 学会・シンポジウム開催 (2件)
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