研究課題/領域番号 |
14J09434
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
土屋 瑞穂 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 蛍光 / 表面化学 / 結晶 / オリゴマー / 有機光化学 |
研究実績の概要 |
今年度は、担体上での光導波路の合成とその光物性を評価するべく、BODIPY-イミンオリゴマーの合成、光物性の評価、またシリカゲル上におけるBODIPY-イミンオリゴマーの担持と光挙動の評価を行った。 BODIPY-イミンオリゴマーの合成と光物性の評価については昨年度に引き続き行った。BODIPY-イミン二量体とオリゴマーの合成を行い、0.90を超える蛍光量子収率から、光導波路の材料として適切である事が分かった。また、単結晶X線構造解析に適格な単結晶を得る事ができたため、結晶構造を得る事ができた。 担体上へのBODIPY-イミンオリゴマーの担持の段階として、シリカゲルをアミン末端修飾したものを準備し、これをアルデヒド修飾したBODIPYと反応させる事によりBODIPYを、イミンを介してシリカゲル上に固定する事を試みた。BODIPYの0.1 mMエタノール溶液をアミン修飾シリカゲル1.0 gと室温で震盪させて反応させた所、30分以内に99%以上のBODIPYがシリカゲル上に吸着された事が紫外可視吸光測定により明らかとなった。また、作製したBODIPY-イミンシリカゲル上のBODIPYはエタノールで洗浄してもBODIPYの流出が見られず、アルデヒドを有さないBODIPYが簡単に流出した事と対照的であった。以上の結果より、BODIPYはイミン結合により化学的にシリカゲル表面に担持された事が分かった。得られたBODIPY-イミンシリカゲルを乾燥させて蛍光測定を行った所、蛍光スペクトルはBODIPY-ドデカンジアミンダイマーと類似したスペクトル形状、蛍光波長を示した。シリカゲル上では溶液状態のように単量体と存在する事が示唆された。 来年度は、以上の結果を用いて担体上での鎖状分子の作製を行い、その光物性の評価を通し、作製した鎖状分子の光導波路としての性能を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
BODIPY-イミンオリゴマーの合成と物性評価、またBODIPYの担体への担持という観点からは、計画は順調に進行しているといえる。 分子光導波路の創製には、蛍光量子収率の高い素材を用いる必要がある。本研究ではBODIPYとアルキルジアミンの結合体は0.90以上の蛍光量子収率を示す事が明らかとなり、BODIPYとイミンの結合体は分子光導波路の素材として適切であるという事が分かった。また、BODIPYとヒドラジンの結合体は、ヒドラゾン架橋を介してBODIPY同士の共役が伸長する事も分かった。これは、BODIPYとヒドラゾンを用いて波長の異なるBODIPYの創製を行える事を示唆している。以上、合成と物性評価の点から、BODIPY-イミンオリゴマーの素材探索は順調であり、光導波路の実現可能性を高めるものである。 BODIPY-イミンオリゴマーの担持媒体としては、シリカゲルを選択した。シリカゲルは表面積が大きいため、表面上の蛍光等のシグナルの観測がしやすくなると仮定し、選択した。まず、表面をアミノ末端としたシリカゲルを準備し、BODIPYを反応させた所、BODIPY 0.1 mM(エタノール溶液)、シリカゲル1.0 gの場合、BODIPYは30分以内にシリカゲルに担持された。これは、BODIPYとアミンが室温下で速やかに反応する事を示し、多段階で積層する際に操作が簡便となる事が示唆される。シリカゲルに担持されたBODIPYは発光性を示し、発光波長は溶液中におけるBODIPY-イミンオリゴマーと同様である事が示された。BODIPYはシリカゲル上でも発光を示す事が分かり、これも光導波路の実現可能性を高めるものである。 以上、合成と担持、それらの物性評価の点において、光導波路の創製の実現可能性を示し、また創製に関わる具体的な手法についても知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、シリカゲル上にBODIPY-イミンオリゴマーを交互に一段ずつ積み重ねる事により、長大な分子を担体上で合成する事を目指す。また、これまでの研究によりBODIPY-イミンオリゴマーが強発光性であり、BODIPY-イミン結合体がシリカゲル上で発光を示す事が知られているため、これらの知見を基にBODIPY-イミンオリゴマーを担体上で合成し、その光物性の評価を行う。 BODIPY-イミンオリゴマーの担体上における合成としては、BODIPYとエチレンジアミンまたはドデカンジアミンを交互に反応させ、成長させる事により、合成を行う。合成したBODIPY-イミンオリゴマーは各種分光測定を用いて積層に関する評価を行う。また、シリカゲル表面上だけでなく、ガラスや石英の基板用いる事により、STM等による高さ分析も試みる。 積層に関しての知見がある程度得られた後、複数種類の励起波長の異なるBODIPYを用いて行う。異なるBODIPYを分子内に配置する事により、分子内に励起エネルギーの傾斜をつける事ができる。このようにして、方向的なエネルギー移動が誘起されるような系の構築を目指す。このような系を複数創製し、各種分光測定を行う事で、光エネルギー移動のダイナミクスを明らかにする。得られた結果をフィードバックする事により、類似コンセプトで行われている研究である長さ30 nm、エネルギー移動効率55%を超えるような系を目指す。
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