研究課題
1.環境的要因を負荷したモデル動物におけるPGE2の変化と機能障害との関係環境的要因である①周産期ウイルス感染、②出産時の低酸素脳症、③育児放棄を周産/新生仔期マウスに暴露し、脳内PGE2量、IL-6、TNF-α発現量を測定した。その結果、①~③すべての要因において共通して脳内PGE2量が増加していた。一方、IL-6およびTNF-αは共通した発現パターンの変化は認められなかった。周産期ウイルス感染を模したモデルとして、新生仔期マウスにPolyI:Cを投与し、成体期において精神学的行動試験を行った。併せて、PGE2合成酵素阻害薬インドメタシン、PGE2-EP1拮抗薬を同時に投与した。その結果、新生仔期PolyI:C投与マウスにおいて、精神行動障害が認められたが、それらは、インドメタシンおよびPGE2-EP1拮抗薬の投与により緩解された。2.周産/新生仔期におけるPGE2暴露による精神機能の発達への影響新生仔期マウスにPGE2およびPGE2-EP1受容体拮抗薬を投与し、成体期において同様に行動学的試験、併せて脳内モノアミンおよびそれら代謝物含量の測定を行った。その結果、新生仔期にPGE2を投与すると成体期において、精神行動障害が認められ、前頭前皮質におけるドパミン作動性神経系の異常が惹起された。PGE2の神経発達への影響を検討するため、神経細胞にPGE2およびPGE2-EP1受容体拮抗薬を暴露させ、神経細胞の大きさおよび突起の長さを測定した。その結果、PGE2の暴露により神経細胞の突起伸長は有意に阻害され、その抑制は、PGE2-EP1受容体拮抗薬により抑制された。以上の結果より、様々な環境的要因による発症脆弱性の形成機序の共通因子となる可能性があるPGE2は、PGE2-EP1受容体を介して突起伸長の阻害により神経発達を障害し、成体期において前頭前皮質におけるドパミン作動性神経系の異常を伴った精神行動障害を惹起することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
統合失調症の発症機序には、周産/新生仔期における神経細胞や神経回路網の発達障害が原因であるとする神経発達障害仮説にもとづき、その機序解明およびPGE2の役割解明を目指している。本年度は、①周産/新生仔期に環境的要因を負荷したモデル動物におけるPGE2の変化と機能障害との関係、②周産/新生仔期におけるPGE2暴露による精神機能の発達への影響についての研究に取組んだ。①の研究においては、様々な環境的要因の負荷は共通してPGE2が変化すること、環境的要因により誘発される精神行動障害にPGE2-EP1受容体が関与していることを見出した。②の研究においては、PGE2を直接暴露すると環境的要因の暴露と同様に、成体期に精神行動障害が認められ、生化学的検討において、PGE2暴露により前頭前皮質におけるドパミン作動性神経系の異常が誘導されること、初代培養神経細胞における突起伸長が阻害されることを見出し、これら行動学的、および生化学的異常はPGE2-EP1受容体を介して発現していることが示された。以上の結果より、計画通り研究が進展していると評価できた。
1.周産/新生仔期におけるPGE2暴露によるストレス・乱用薬物に対する脆弱化Two-hit仮説に基づき、新生仔期におけるPGE2暴露したマウスの思春期に社会性敗北ストレスおよび精神異常発現薬(フェンシクリジン:PCP)の連続投与を負荷することにより、行動変化が顕在化もしくは重篤化するかどうか検討する。2.周産/新生仔期におけるPGE2暴露と遺伝的要因の相互作用新生仔期におけるPGE2暴露と統合失調症遺伝要因の相互作用について検討するため、統合失調症の遺伝要因モデルであるDisrupted-in-schizophrenia 1(DISC1)変異遺伝子過剰発現マウス(本研究室にて飼育中)の新生仔期にPGE2に暴露することにより、行動変化が顕在化もしくは重篤化するかどうか検討を行う。
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Neuropsychopharmacology
巻: 40 ページ: 601, 613
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Hum. Psychopharmacol.: Clin. Exp.
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