研究課題/領域番号 |
14J09461
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤橋 卓也 大阪大学, 情報科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | マルチビュービデオ / 無線ネットワーク / 高遅延ネットワーク |
研究実績の概要 |
本年度は下記の3テーマについて取り組んだ. 1)無線ネットワーク上での映像伝送方式の開発:OFDMに代表される近年の無線通信技術は,複数の無線資源を同時に利用することで通信の高速化を達成している.一方で,各サブキャリアは異なる通信品質を有しており,悪い通信品質を持つサブキャリアでは伝送中のデータ誤りが頻発する.MATLABならびにJMVCエンコーダを用いた基礎評価では,通信品質が悪いサブキャリアで発生するデータ誤りがマルチビュービデオの品質劣化をもたらすことが分かっている.基礎評価を踏まえて,各無線資源の品質に応じてマルチビュービデオデータのうち,特に視覚的に影響をもたらすデータを選択的に伝送する手法を設計した. 2)高遅延ネットワーク上での映像伝送方式の開発: 水中から地上または水中から水中への音波を用いたマルチビュービデオ配信は,海中の生態系調査や資源探査の支援に利用することができる.しかしながら,通信媒体が音波であるため,通信距離が離れるにつれて映像を再生できるまでに生じる遅延が大きくなる.本研究では,伝搬遅延を考慮した通信制御手法,ユーザ側の視聴方法に応じた映像伝送を組み合わせることで再生に要する遅延量の削減を達成する. 3)携帯ネットワーク上での映像伝送方式の開発:本テーマでは,より多くの場面をマルチビュービデオとして提供できるように,人々がスマートフォンやタブレットなどの小型撮影機器で撮影した映像を効率的に集約してマルチビュービデオとして配信する伝送手法を提案する.本手法では,無線通信を利用する場合,各撮影機器は他の撮影機器の通信を傍受できること,複数の撮影機器が同時に同じ対象を撮影する場合,撮影した映像間に相関があることを利用した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)に関しては,MATLABならびにJMVCエンコーダを利用して,無線OFDMネットワーク上でマルチビュービデオを伝送する際,伝送時に発生するデータ損失が映像品質にもたらす影響を定量的に評価した.その後,データ損失による映像品質への影響を緩和するために,無線OFDMネットワークの通信資源を選択的に利用して映像伝送する手法を設計した.本研究成果は国際会議にて発表済みであると共に,IEEE Transactions on mobile computingに論文を投稿し,査読者からのコメントを受けて現在修正中である.また,通信分野において著名な国際会議であるIEEE Globecomに論文を2本投稿中である. 2)に関しては,水中音響ネットワーク上で低負荷・低遅延を達成する予測ベースの伝送手法を設計した.本研究成果をまとめた論文をIEEE Journal of Oceanic Engineeringに投稿しており,現在は査読者からのレビューを受けて,内容の修正を進めている. 3)に関しては,各携帯撮影機器が撮影する映像間の相関・類似性を用いて,効率的に各撮影機器の映像を集約する伝送手法を設計した.本研究成果は学術論文誌,国際会議で発表済みであるとともに,本研究成果をまとめて投稿したDICOMO2014では,当該論文が優秀論文賞を受賞している.また,他の学術論文誌から条件付採録との通知を受けている.
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今後の研究の推進方策 |
1)に関しては,これまでの評価環境において,各通信資源で固定変調を利用しており,適応的な変調技術を利用することによる効果ならびに問題について議論する必要がある.また,特定の通信資源にデータが集中することによる通信効率の低下に対処するために,伝送データを分散的に配置する拡張方式について設計を進めている.また,現在の映像伝送は量子化,エントロピー圧縮を映像符号化に利用することを前提としているが,映像を圧縮することなく,画素値・特徴量を直接ユーザに対して伝送するグレースフルビデオ伝送について研究を進めている. 2)に関しては,ユーザ側の視聴方法が映像品質または伝送遅延にもたらす影響について十分な議論が進んでいない.現在は,確率モデルなどを元にして,多様な視聴方法における提案手法の効果を明らかにすることを考えている.また,現在の評価において利用しているのは地上の映像である.今後は水中の映像を利用することで,映像の変化による設計手法への影響について調査を進める. 3)に関しては,ある撮影機器の映像が伝送時に損失した場合,提案手法の効果が著しく低下することが分かっている.また,各撮影機器がバッテリー駆動で動作する環境においては,積極的に映像符号化を利用する本手法は消費電力量が大きくなり,各端末の生存時間が短くなる問題がある.現在は,性能低下を抑制する再送手法について検討を進めているとともに,圧縮センシングを利用した低電力消費を達成する映像伝送手法について考察している.
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備考 |
1)受賞歴:優秀論文賞, "複数カメラからの映像の伝送順序が映像品質に与える影響について," 情報処理学会DICOMO2014, 2014年7月 2)投稿中,修正中の論文:3件(IEEE Transactions on Mobile Computing, IEEE Journal of Oceanic Engineering, IEICE Transactions on Communication)
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