研究課題/領域番号 |
14J09465
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
三浦 健人 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 性決定 / 卵巣 / 精巣 / SRY / 性の可塑性 / セルトリ細胞 / 顆粒膜細胞 / SOX9 |
研究実績の概要 |
マウス胎子XX卵巣を雄マウス腎臓被膜下へ移植し発生させると、移植10日目までに一度起こった卵巣化がリセットされ、移植20日目までに精巣様構造が出現する(XX精巣化)。本研究はこのXX精巣化モデルを用いて、「精巣決定遺伝子SRYの標的遺伝子」および「初期卵巣化因子」の同定と、それらの遺伝子の時間的・空間的な発現解析を行い、哺乳類の支持細胞の初期性分化の分子機構の解明に寄与することを目的に行われている。
申請者は、XX精巣化の過程で未分化な状態に戻ったXX生殖腺にSRYを誘導し、発現の上昇が見られた約4000の遺伝子の中から、胎生期のセルトリ細胞で特異的に発現する遺伝子約80個を、SRY標的遺伝子候補として抽出した。これらの候補の中には、雄の性分化に関連する因子や、胎生期の精巣形成に関与する因子等が含まれていた。またこの中には、精巣分化に関する機能が明らかになっていない複数の転写因子が含まれていた。申請者はそれらの転写因子に関して、胎生期XX生殖腺と比較しXY生殖腺において高発現する傾向をqRT-PCRで得ており、新たなSRY標的遺伝子の有力な候補と考えている。
また申請者は、マイクロアレイによりXX精巣化過程における遺伝子発現変動を継時的かつ網羅的に解析した。その結果、XX精巣化の進行に伴い、約25%の顆粒膜細胞特異的遺伝子群の発現が減少することが明らかとなった。また、それらの遺伝子の発現減少は、XX生殖腺の未分化性が再獲得される移植10日目までに起こる結果が得られた。申請者は、移植10日目までに減少傾向を示した因子のうち、胎生期の顆粒膜細胞に特異的に発現する遺伝子を初期卵巣化因子の候補として抽出した。それらの候補因子のいくつかに関しては、qRT-PCRにおいても移植10目までに遺伝子発現が減少することを確認しており、初期卵巣化因子の有力な候補と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者は、未分化性を再獲得したXX精巣にSRYを誘導した場合に発現が上昇してくる遺伝子の中から、精巣分化に関する機能が知られていない複数の転写因子をSRY標的転写因子として抽出した。これらの転写因子のいくつかに関しては、胎生期XX生殖腺と比較してXY生殖腺で高発現する傾向があるという結果を既に得ている。この結果は、これらの転写因子が胎生期のXY生殖腺の性分化においてもSRYにより誘導されていることを示唆しており、今後SRYの標的遺伝子を同定するにあたり当初の計画よりも早い進展が見込まれる。
また申請者は、XX精巣化において未分化性が再獲得されるまでに発現が減少した因子の中から、初期卵巣化因子を候補として抽出した。これらの因子のいくつかは、マイクロアレイだけでなくqRT-PCRによる定量解析においても、XX精巣化における未分化性の再獲得過程で発現が減少する傾向が得られている。以上の結果より、これらの因子が胎生期XX生殖腺の性分化過程における未分化性の消失および初期卵巣化にも関与していることが示唆され、これらの因子の解析を行うことで、「初期卵巣化因子」の同定と機能解明につながると期待できる。
更に申請者は、マイクロアレイを用いてXX精巣化過程の遺伝子発現変動を解析する中で、XX精巣化の進行に伴い、約25%のセルトリ細胞特異的遺伝子の発現が増加することも明らかにした。また、これらの精巣化因子の増加は、XX生殖腺において精細管様構造が形成される移植20日目までにかけて起こることも明らかとなった。以上の結果は、移植20日目までに起こる精巣化因子の発現増加が、XX精巣化における精細管様構造の出現等の組織学的変化に関与している可能性を示唆するものである。今後、これらの精巣化因子の解析を進めることで、雄環境下で起こるSRY非依存的な精巣化のメカニズムの解明にもつながることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに得られているSRY標的転写因子の候補に関して、それらの転写因子が胎生期の性分化過程においてもSRYにより発現が誘導されることを示すために、申請者らが所有しているXX生殖腺においてもSRYが恒常的に発現しているマウス(SRY恒常活性化マウス) を用いる。qRT-PCR等による定量的な解析を行い、SRY恒常活性化マウスXX生殖腺において、野生型XX生殖腺と比較して高発現している因子を明らかにすることで、SRY標的転写因子のさらなる絞り込みを行う。合わせて、SRY標的遺伝子の候補に関して、in-situハイブリダイゼーションや免疫組織化学による胎生期XY生殖腺の組織学的解析も検討する。
現在までに得られている初期卵巣化因子の候補に関して、in-situハイブリダイゼーションや免疫組織化学によるXX精巣および胎生期XX生殖腺の組織学的解析を行う。特に、XX精巣化において未分化性の指標となる「XX生殖腺においてSRYを発現させた場合にSOX9が誘導される」細胞が、それらの候補因子を発現するかに注目する。有力な初期卵巣化因子の候補に関しては、Crispr-Cas9システム等を用いてノックアウトマウスの作製を行い、胎生期の卵巣化に与える影響を解析する。
また、上記の解析に加えて、XX精巣化の過程で発現が上昇する精巣化因子に関してqRT-PCRを用いた定量的かつ継時的な解析を行うことで、それらの精巣化因子がXX精巣化過程で生じる組織学的および分子学的変化に与える影響も明らかにしたい。
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