本研究では免疫細胞による自己・非自己識別現象を数理モデル化することで、免疫細胞が類似する自己と非自己の抗原を高精度に識別するメカニズムの解明を目指した。特に、免疫細胞の一種であるT細胞が1細胞レベルで自己と非自己由来の抗原を識別する現象を対象に研究を行った。具体的な成果は次の通りである。(1)前年度より取り組んでいた決定論モデルによるT細胞抗原識別の理論についてさらに解析を進めた。従来モデルと提案モデルを融合させた一般化モデルの解析から、化学反応系の非線形性を従来モデルとは異なるメカニズムによって高めることで、識別精度に重要な2つの特性間のトレードオフを解消できることを明らかにした。また提案モデルと実際のT細胞のシグナル伝達系との対応について調査・考察を行った。本研究成果については国内外で学会発表を行い、論文投稿準備を進めた。(2)決定論モデルによる研究を発展させ、T細胞がノイズ環境下でも正確に抗原を識別するメカニズム解明のための研究に取り組んだ。去年度の後半に着手したT細胞抗原識別の確率モデルを基に改良モデルを構築した。改良したモデルについて計算機シミュレーションによる解析、及び数理解析を進めた。
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