研究課題/領域番号 |
14J09647
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松本 篤 東京大学, 情報学環・学際情報学府, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
キーワード | 科学技術社会論 / デザイン民族誌 / メディア・プラクシス / エリシテーション / ICT / インフラストラクチャー / コミュニティ / アーカイブ |
研究実績の概要 |
近年、「コミュニティ・アーカイブ」とも総称される、ICT技術を伴った市民参加型のアーカイブ実践が国内各地で萌芽している。本研究の目的は、従来のアーカイブ構築とは異なる担い手が推進するこれらのメディア・プラクシスが、社会と技術との関わり合いにどのような変容をもたらすのかを明らかにすることである。また、それぞれの取り組みの固有性を阻害しない、汎用性のあるアーカイブのモデルを構築することである。 平成26年度は、以下の3つのアプローチから研究を進めた。 1)国内外の市民参加型アーカイブに関する動向調査:市井の人々による記録のアーカイブ活動を展開するNPO法人記録と表現とメディアのための組織を対象とした参与観察や、関係者へのインタビュー調査を行った。また、海外の事例について、文献調査をとおして把握し、市民参加型アーカイブの動向を理解することに務めた。 2)ローカル・ナレッジの生成と活用に資するICTを用いたアーカイブの構築:「エリシテーション」という文化人類学の調査法と、インターネットにおけるデータベース技術を組み合わせた、汎用性の高いアーカイブ・モデルの構築の可能性を検討した。なお、これについては、須之内元洋氏、杉本達應氏(ともに札幌市立大学)の協力、NPO法人記録と表現とメディアのための組織からの映像提供を受けた。 3)アーカイブ実践をとおした公共圏の再構築:ICTを用いたアーカイブと、その運用をとおして生成される「知識」や「記憶」との関係に注目し、資料の内的属性とされる著作権などの法的制度とは別のかたちで映像資料が共有される方法を、文献精読をとおして検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
近年の日本における「コミュニティ・アーカイブ」の実体を把握すべく、当初の実施計画よりも精力的に参与観察やインタビュー調査を押し進め、多くのデータを取得することができた。また、アウトリーチ活動によって本研究への理解や認知をひろく促進することができた。27年度は学会発表や論文投稿を積極的に行う見通しであり、今年度に得られたデータや成果の蓄積をもとに、その知見をひろく提示することをめざす。 なお、申請者はアーカイブ事業を進めるNPOの事業を参与観察しているが、昭和14年頃に撮影された「勤労奉仕」の記録映像(16ミリフィルム)を岐阜県大垣市内から発見したことについては、予想をはるかに上回る成果であった。映像そのものの資料的価値もさることながら、映像を用いた社会調査の実施 (戦争体験者へのエリシテーション)についてもかなり期待でき、戦後70周年の節目にふさわしい成果を挙げたい。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度、および27年度の参与観察やインタビュー調査、文献調査によって得られたデータや成果の蓄積をもとに、学会発表や雑誌論文として積極的にその知見を提示する。とりわけ、大垣市内で発見された昭和14年頃の「勤労奉仕」の記録映像(16ミリフィルム)については、近隣の高等学校や大学、及び地域住民に協力を得ながら、戦争経験者に対する「エリシテーション」とインターネット上でのデータベースを組み合わせたアーカイブのモデルケースを設計・実施し、その成果を学会発表や雑誌論文にて発表する予定である。目下、平成27年度の実施計画として、その具体的な内容を関係者と検討中である。
|