申請者は、「コミュニティ・アーカイブ」とも総称される、市民参加型のアーカイブ実践が世界的に萌芽している状況に注目し、その動向を動態的に捉えるためのメディア・デザイン的な研究に取り組んできた。平成27年度は、とりわけ「エリシテーション」とよばれる視聴覚資料の視聴をとおしたインタビュー調査方法と、参加型アーカイブのデザイニングの接点を、以下の2つのアプローチから探究した。
1)エリシテーションの理論的精緻化:海外・国内の文化人類学、社会学におけるエリシテーションと呼ばれる調査方法の理論と実践、およびその応用に関する文献の調査を行った。また、それと並行して、コミュニティ・アーカイブの国内外の実態を把握するための文献調査を行った。そして、図書館や公文書館が牽引してきた従来のアーカイブ構築と、今日のコミュニティ・アーカイブと呼ばれる市民参加型のメディア実践を、「情報」や「知識」の生産・受容の有り様から捉え直した分析と考察を行い、その成果を書籍、および国内の学会やシンポジウム等で発表した。
2)エリシテーションのデザイニング:昭和14年頃に撮影された16ミリフィルムのデジタル化(ハイビジョン)、および、撮影の被写体となった高等女学校生へのエリシテーションを計5回実施した。想起や語りといった情報を効果的に取得するためのツール作成、質問項目の設定、音声・映像記録機材の適性など、調査の目的とその方法の精緻化をすすめた。なお、エリシテーションの実施に際しては、岐阜県立大垣北高等学校、NPO法人記録と表現とメディアのための組織、情報科学芸術大学院大学教員、その他多くの関係者に多大なる協力を得た。
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