研究実績の概要 |
光変換型可溶性前駆体法を用いて塗布積層可能な有機薄膜太陽電池(OPV)材料の開発を行った. 光変換型可溶性前駆体法は光照射による構造変化に伴い溶解度の制御が可能である. これにより, 溶液プロセスでの積層素子構造(p-i-n構造)作製が可能となり, 各層の役割に応じた材料の使い分けによる光電変換効率(PCE)の向上が期待できる. その素子構造において, これまでに研究されてきた正孔輸送材料の光捕集波長は500 nmまでであり, 長波長側の光吸収特性を改善する事が, PCEの向上につながると考えられる. そこで, 本研究では長波長側の吸収特性の改善が可能な正孔輸送材料の開発を行った. 正孔輸送材料として最適なHOMOレベルを示すアントラセンを基本骨格とし, 強い電子受容性ユニットであるピラジノキノキサリンを組み合わせた分子を設計し、合成を行った. 合成した分子は分子内電荷移動吸収帯の発現により長波長吸収を効果的に改善するに成功した. また, 大気下光電子分光法によるイオン化エネルギー測定および吸収末端から算出したHOMOレベルは-5.3eV, LUMOレベルは-3.8eVであり, フェニルC60酪酸メチルエステル(PCBM)を電子輸送材料とする場合の最適なエネルギーレベルを持つ事を明らかにした. さらに積層型の素子作製を可能にするために光変換型可溶性前駆体の効率的な合成ルートの開発を行った. 得られた前駆体の光変換反応をプロトンNMR測定, 紫外可視吸収スペクトル測定, 赤外分光測定によりモニターすることで, 溶液条件および薄膜条件での定量的な構造変化を確認した. これらより, 平成26年度研究計画である目的化合物の合成および基礎物性の評価は達成された. 今後OPV素子を作製する事によりPCEの向上が期待される. 本研究内容は日本化学会第95春季年会において成果発表を行う予定である.
|