ミトコンドリアの減少は、骨格筋萎縮などの骨格筋の機能不全の原因となることが近年明らかにされつつある。実験的な脱神経支配に伴う骨格筋ミトコンドリアの減少や骨格筋萎縮を温熱刺激が抑制すること、そしてその分子メカニズムを明らかにした。以下に具体的に得られた知見を記す。 マウスの坐骨神経を10日間に渡って外科的に切除することで、骨格筋ミトコンドリア量の減少(OXPHOSタンパク質量の減少、CS最大活性の低下)が誘導された。しかし、脱神経支配の期間中に温熱刺激の介入(40℃の暑熱環境へ1日30分間曝露)を行うことで、ミトコンドリアの減少や骨格筋萎縮が部分的に抑制された。本研究では、そのメカニズムとして、脱神経支配によるミトコンドリアの分解機構であるミトコンドリア選択的オートファジーの活性化(mtLC3-IIの増加)が温熱刺激によって抑制されることが明らかとなった。さらに、その上流制御因子として、分解すべきミトコンドリアに目印をつける酵素の活性化(mtParkinの増加)および、ミトコンドリアを実際に分解する場であるオートファゴソームの伸長に貢献するタンパク質の増加(ATG5とATG16Lの増加)が温熱刺激によって抑制されることも明らかとなった。 本研究の知見は、脱神経支配に対するリハビリテーション方法として温熱刺激が有力な候補となる可能性を示唆するものである。なお、骨格筋の脱神経支配は、外傷性の神経損傷のみならず加齢、ALS、骨格筋損傷によっても引き起こされると考えられている。よって、今後は臨床への橋渡しを目指した研究としての発展が期待される。
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