研究実績の概要 |
多核ポリヒドリドクラスターの光化学では, 多核骨格を保った励起種の発生が期待される. 本申請研究では, 多核ポリヒドリドクラスターの光照射下における高い反応性と特異な電子状態に着目して, 二酸化炭素の活性化について検討した. 本年度は二核ルテニウムポリヒドリドクラスターの光反応による二酸化炭素の活性化及び, 立体的に嵩高いルテニウムフラグメントを有する新規ポリヒドリドクラスター合成法の開発を行った. ルテニウムからなる二核ポリヒドリド錯体LRu(μ-H)_4RuL (1a:L=Cp*, 1b: L = 1,2,4-tri-tert-butylcyclopentadienyl (Cp‡)) は遮光した場合, 温和な条件では二酸化炭素に対して反応性を示さない一方, 365 nmの光照射を行うことで1気圧, 0 °Cから室温という温和な条件において二酸化炭素の取り込みが進行することを明らかにした. Cp*を支持配位子に有する錯体1aでは, 二酸化炭素がルテニウムヒドリド間への挿入反応が進行し, 二酸化炭素がフォルマート錯体を与えた. 一方で, 立体的に嵩高いCp‡基を支持配位子として用いた場合には, C=O二重結合の切断が起こり, オキソカルボニル錯体を与えた. このような二酸化炭素の配位様式の違いは, ルテニウム周りの反応場の広さに大きく起因しているものと考えられ, 支持配位子の嵩高さに応じて二種類の異なる反応が進行した. ルテニウムのみならず, 8族以外の金属を導入した異種, 混合配位子型ポリヒドリドクラスターの光反応を検討すべく, 2-propanolと塩基を用いた, 簡便かつ効率的合成法の開発を行った. 今後は新規に合成した種々二核ポリヒドリド錯体と二酸化炭素との反応を検討する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は, 二核ポリヒドリドクラスターの光化学を利用した二酸化炭素の量論的な分子変換及び, 二酸化炭素の活性化に対して有用と考えられる種々二核ポリヒドリドクラスターの合成法の開発を目的として研究を行った. 二酸化炭素の量論的な分子変換に関しては, 二核ルテニウムポリヒドリドクラスターを用いて二酸化炭素のルテニウムヒドリド間への挿入, 二酸化炭素のC=O二重結合の切断を達成した. 種々二核ポリヒドリドクラスターの合成に関しては, 2-propanolをヒドリド源とした簡便なヘテロ二核ポリヒドリドクラスターの合成法の開発を行った. これらの成果に関しては, 専門誌(Organometallics)への投稿及び学会(ICOMC, 錯体化学討論会)での発表を行い, 概ね当初の予定通り進行している.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は昨年度までに合成した種々錯体を用いて, "1. 二酸化炭素を活性化した後に基質と反応させる手法"及び"2. 基質を活性化させた後, 二酸化炭素と反応させる手法"の二つのアプローチで課題に取り組む. "二酸化炭素を活性化した後に基質と反応させる手法"では, 二核ルテニウムポリヒドリド錯体と二酸化炭素との光反応によって生成するホルマート錯体やオキソカルボニル錯体の配位子の脱離を行うため, 引き続き水素, シラン類, アルキンやアルケンなどの不飽和炭化水素との反応を検討する. "基質を活性化させた後, 二酸化炭素と反応させる手法"では, ルテニウムのみからなる二核錯体及び9族金属を導入したポリヒドリド錯体を利用して基質のC-H切断反応を進行させた後, 二酸化炭素の挿入によって二酸化炭素と基質のカップリングを目指す. 二核ルテニウム錯体とヘテロ環状化合物との反応では, ヘテロ原子が一つのルテニウムに配位し, 近傍に存在するもう一つのルテニウムでα位のC-H活性化が進行すると考えられる. このような複核骨格を利用したα位でのC-H切断反応及びそれに続く二酸化炭素の挿入反応を利用してヘテロ環状化合物と二酸化炭素との反応を検討する. 9族金属は脂肪族や芳香族化合物のC-H切断に対して高い活性を有していることがわかっており, アルキル錯体やアリール化合物を安定に与える. 8族と9族金属を導入したポリヒドリド錯体では, 9族部位での炭化水素の切断及び8族部位での二酸化炭素の補足が進行すると考えられる. 昨年度合成した9族金属を含むポリヒドリド錯体を用いて, 炭化水素類と二酸化炭素とのカップリングを検討する.
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