研究実績の概要 |
多核ポリヒドリドクラスターの光化学では, 多核骨格を保った励起種の発生が期待され, 昨年度までに光照射条件下における高い反応性を利用した二酸化炭素活性化について報告した. 本年度は二核ルテニウムポリヒドリドクラスターと二酸化炭素との光反応の反応メカニズムの解明, 反応条件下におけるポリヒドリドクラスター再生を目的としたポリヒドリドクラスターの新規合成法の開発を行った. また, 二酸化炭素を錯体上へ取り込んだ後に外部基質を取り込む手法とは別に, 錯体上に基質を取り込んだ後, 二酸化炭素とのカップリング反応を行う手法からも研究を行った. ルテニウムからなる二核ポリヒドリド錯体LRu(μ-H)_4RuL (1a:L=Cp*, 1b:L=1,2,4-tri-tert-butylsyclopentadienyl(Cp‡))と二酸化炭素との反応では, 支持配位子の立体的な嵩高さに応じて「Ru-Hへの挿入」と「C=O二重結合の切断」が制御されることをこれまでに報告した. 反応機構の解明を目的として二酸化炭素と等電子構造を有する二硫化炭素との反応を検討した. 1と二硫化炭素との反応は, 定量的に, 「Ru-Hへの挿入」が進行しアリル型ジチオホルマート錯体が得られた. アリル型ジチオホルマート錯体は光照射条件下において更に「C-S結合の切断」がほぼ選択的に進行し, スルフィドチオアルデヒド錯体が得られた. これらの結果は二酸化炭素との反応においても, 二酸化炭素の段階的「Ru-Hへの挿入」と「C=O二重結合の切断」によって反応していることを示唆している. 1に対して, テトラヒドロフランや飽和環状アミン類を光照射条件下反応させると, α位のsp3 性C-H切断が容易に進行することを見出した. 今後はこれらの反応を利用しC-H切断による基質の取り込みと外部の二酸化炭素とのカップリング反応を目指す.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は, 二核ポリヒドリドクラスターと二酸化炭素との反応機構の理解, 触媒化を指向した二核ポリヒドリドクラスターの新規合成法の開発, 外部基質とのカップリングを指向した種々C-H活性化反応の開発を目的として研究を行った. 二核ポリヒドリドクラスターと二酸化炭素との反応機構の理解に関しては,二核ポリヒドリドクラスターと二硫化炭素との反応を検討することで, 二酸化炭素の段階的「Ru-Hへの挿入」と「C=O二重結合の切断」によって反応していることを示した. 触媒化を指向した二核ポリヒドリドクラスターの新規合成法の開発に関しては, 2-propanolをヒドリド源及び水素ドナーとして利用した酸化数の変化を伴う新規ポリヒドリドクラスター合成法の開発を行った. 外部基質とのカップリングを指向した種々C-H活性化反応の開発に関しては, テトラヒドロフランや飽和環状アミン類を光照射条件下反応させることで, α位のsp3 性C-H切断が容易に進行することを見出した. これらの成果に関しては, 専門誌(Journal of Organometallic Chemistry)への投稿及び学会(PACIFICHEM, 有機金属化学討論会, 日本化学会春季年会)での発表を行ない, 概ね当初の予定通り進行している.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までは"1. 二酸化炭素を活性化した後, 基質と反応させる手法"及び"2. 基質を活性化させた後, 二酸化炭素と反応させる手法"の二つのアプローチで課題に取り組んできた. これまでに, 錯体上で取り込まれた二酸化炭素と外部基質との反応は, 本系では非常に困難であることがわかりつつあるため, 今後は"2. 基質を活性化させた後, 二酸化炭素と反応させる手法"を主なアプローチとして課題に取り組む. これまでに, 二核ポリヒドリドクラスターは光照射条件下, もしくは熱条件下において容易にC-H切断反応が進行することを見出しているため, このようなアルキル化合物に対する二酸化炭素の挿入反応を中心に検討する. "1. 二酸化炭素を活性化した後, 基質と反応させる手法"に関しても, 脱離過程が問題となっていることが分かっているため, 配位子との結合エネルギーが比較的小さい3d金属の導入(鉄など)した二核ポリヒドリドクラスターを合成し, 二酸化炭素との反応を検討する.
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