研究課題/領域番号 |
14J09752
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
舛田 武仁 高知工科大学, 総合研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 公共財供給 / 制度設計 / 経済学実験 / ただ乗り |
研究実績の概要 |
今年度は主に,頑健な制度,すなわち,参加者の行動原理が多様であることを前提に設計された制度の理論・実験研究に取り組み,論文Huang, Masuda, Okano and Saijo (2015,以下HMOS)にまとめた.以下,その概要を記す. 主たる公共財供給実験のサーベイでは,被験者の中には利己的に振る舞う者の他に,一定数の相手が協力的行動を示したときに限り自分も協力的行動を取る,いわゆる条件付き協力者がいることが定型化された事実となっている.そこで,HMOSは新たに利己的なプレイヤーと条件付き協力プレイヤーが混合した集団を仮定し,いわゆる社会的ジレンマを再考察し,この環境でパレート効率性(全員協力)を達成するために,Stay-Leaveメカニズムという制度を導入した.同メカニズムでは,「協力」を選んだプレイヤーに対してのみ,協力を維持(Stay)するのか,止める(Leave)再度意思決定をしてもらい,各自の最終的な選択の結果がそのまま実現する.同メカニズムの下で全員協力が唯一の均衡となる条件は,(公共財の限界便益)×(利己的なプレイヤーの数)>1と求められる.その含意は,集団内に条件付き協力プレイヤーが多いと,かえって協力が起きにくい,という逆説的なものになる. 被験者実験では,Stay-Leaveメカニズムは86%という高い平均協力率を得た.また,毎回の,被験者の選択・各サブゲームでの行動を予想するアンケートの回答に基づき,その行動原理を分類したところ,4-7割の被験者が利己的な一方,1,2割が条件付き協力者と判定された.これらの結果は,行動原理の多様性を支持するものであり,実際その下でStay-Leaveメカニズムがフリーライダーを防止することを意味する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
公共財供給実験のサーベイにおいて定型化された事実を踏まえたうえで,新たに利己的なプレイヤーと条件付き協力プレイヤーが混合した集団を仮定した公共財供給において,協力を達成するための制度を理論的に示した.さらに,その実験データからじっさい被験者の行動原理を利己的か条件付き協力かを分類することで,行動原理の多様性を支持しながら制度全体のパフォーマンスも理論とほぼ整合的であることを示した.これらの結果は制度設計するうえで制度参加者の行動原理に幅をもたせることが重要だという含意を持ち,その意義は大きいといえる.
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今後の研究の推進方策 |
Huang, Masuda, Okano and Saijo (2015)とMasuda, Okano and Saijo (2014)の両論文から,制度設計するうえで制度参加者の行動原理に幅をもたせることが重要だということが示唆された.これを踏まえ,今後は,条件付き協力に代表されるような規範以外にも,意思決定理論が一個人の問題として扱ってきた人々の選好を戦略的状況,さらには制度設計に応用することを目指す. 例えば,環境問題・天災などその発生確率の分布すら不明である.人々はこのような曖昧な状況を回避したい傾向があることが実験研究で分かっているため,その知見を制度設計理論にフィードバックする.
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