研究課題/領域番号 |
14J09826
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 寿昭 東京大学, 情報学環・学際情報学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 児童ポルノ禁止法 / 社会問題 / 社会構築主義 / クレイム分析 / レトリック分析 |
研究実績の概要 |
採用者は、「社会問題」を人々が議論し、合意を形成する際、それはいかにして達成されるのかという問いを立てた。この問いに答えるため、採用者は、国内のみならず国際的にも認知度が高まってきた日本のマンガ・アニメ作品について、その性表現規制の議論を具体的な事例として取り上げた。平成26年度は、以下の3点の研究を進めてきた。 ①まず、2014年6月に2度目の改正が成立した「児童ポルノ禁止法」をめぐる言説資料の収集を完了させた。同法の2014年改正にあたっては、実在しない児童の性表現を含むマンガやアニメ等と「児童の権利を侵害する行為との関連性を調査研究する」と定めた附則(「調査研究附則」)をめぐって、大きな議論が巻き起こった。結果、可決した改正案からは、調査研究附則は削除された。 ②このとき、これまでの性表現規制論争に見られなかった特徴として、独自の発展を遂げた「マンガ・アニメの2次創作文化」が、保護すべき対象として定義されていることを発見した。今回の議論では、調査研究附則に反対する人々が、2次創作文化を日本のマンガ、アニメ文化の基礎として定義し、積極的に「政策課題化」した。 ③児童ポルノ禁止法改正の議論の分析では、「社会問題の構築主義アプローチ」と「ディベート論」という異なる2つの分析枠組みの接続を試み、一定の手応えを得た。社会学の「社会問題の構築主義アプローチ」では、人々が自らの主張をより受け入れられやすい形に変化させていく技術に注目することがある。この視点は、「ディベート」を分析する枠組みと共通のものである。 調査研究附則の議論では、附則に賛成/反対の双方のクレイムが、「児童の保護」を論拠に自らの議論を展開するという状況が生まれた。今回の研究では、「本当の児童の擁護者」の地位が争われたこの状況を「擁護者(Advocate)コンテスト」と名付け、その発生条件と作用を分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まず、申請した計画通り、3年間で分析する事例の言説資料の収集は、本年度で概ね完了した。このことで、平成27年度以降は言説の分析に集中することができる。 事例として採用した日本のマンガ・アニメの性表現規制に関する論争史の分析については、計画以上に進めることができた。2008年から2014年にかけて争われた「児童ポルノ禁止法」の調査研究附則をめぐる論争史については、2014年8月のSociety for the Study of Social Problems学会での発表、および2015年9月発行の『ソシオロゴス』に投稿した論文をもって、一旦区切りにする。「児童ポルノ禁止法」をめぐる論争の分析は採用2年目に行う計画だったが、採用1年目に完了することができた。 また、「社会問題」についての合意形成過程を分析するための理論モデルを構築する試みに関しては、期待以上の進展があった。本来、理論モデルの構築は採用3年目に試みる予定だったが、レトリック論に明るい明治大学講師の氏川雅典氏の助言もあり、元来採用者が分析枠組みに用いていた「社会問題の構築主義アプローチ」の弱点を「ディベート論」によって克服できる可能性を発見した。「社会問題の構築主義アプローチ」は、合意形成の過程において、ある主張を持つ人々が、自分たちとは異なる主張をする人々の影響を受けて、どのように自らの主張を修正していくのかという過程を分析するための方法論が適切に整理されていなかった。この弱点は、はっきりと立場が分かれた状況で主張をやりとりする「ディベート」の分析に特化した「ディベート論」の枠組みを援用することで、克服できる可能性が高い。「社会問題の構築主義アプローチ」に「ディベート論」の方法論を援用し、「児童ポルノ禁止法」の合意形成の過程を分析した採用者の論文は、上掲のとおり、『ソシオロゴス』誌に掲載が確定した。
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今後の研究の推進方策 |
申請書の研究計画にあるとおり、採用2年目は①「児童ポルノ禁止法」・「青少年条例」改正論争を事例とした、日本国内における合意形成過程の事例モデルの構築を完了させるとともに、②海外における「実在しない青少年の性表現規制」論争の合意形成過程の調査を行い、余裕があれば、3年目に行う予定だった、③合意形成過程の分析一般に役立つような理論モデルの構築を試みる。 ①上掲のとおり、2008年から2014年にかけて巻き起こった「児童ポルノ禁止法」改正論争の分析には区切りがついたため、2年目は「青少年条例」改正論争を中心に分析する。特に、「児童ポルノ禁止法」改正論争にも大きな影響を与えた2010年の東京都青少年条例改正論争を事例に、③合意形成過程の分析のための理論モデルの有効性を確認しながら、分析を行う。特に、「社会問題の構築主義アプローチ」の弱点を「ディベート論」で補うための理論枠組みについて、事例を用いて分析の精度を確認しながら研究を進めていきたい。この研究結果は、2015年10月頃投稿締切りの『現代社会学理論研究』に投稿する予定である。 ②また、2015年4月に香港で開催予定Global Creative Industries Conference(口頭発表確定)および8月下旬にシカゴで開催予定のSociety for the Study of Social Problems(発表予定なし)への参加を通じて、海外での「実在しない児童の性表現」の論争に関する現地調査を行う予定である。中国では、2015年4月に中国文化省により多数の日本のマンガ・アニメ作品が「有害」認定を受けたばかりである。これに対し、米国は「表現の自由」を尊重する文化圏である。両国における日本のマンガ・アニメ作品の表現規制の現状を把握することで、国際的なコンテンツ産業の輸出入における規制の合意形成過程を分析する手がかりとなるだろう。
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