二次リンパ組織は免疫応答の起こる場であり、ワクチンの作用基盤である獲得免疫応答の根幹といえる。魚類と哺乳類ではその部位や内部構造は異なる。しかし、免疫応答の根幹であるにも関わらず、魚類ではその形成に関与する分子機構は長らくブラックボックスのままであり、哺乳類との違いをもたらす原因もわかっていない。本研究では、哺乳類の二次リンパ組織形成に最も重要な分子のひとつであるリンホトキシン(LT)とその受容体(LTβR)に魚類と哺乳類で違いがあることに注目し、魚類LTとLTβRの発現や機能を調べることで、魚類の免疫応答の場を形成するメカニズムを探る。 本年度の研究では以下の3点を明らかにした。(1)魚類のLTは独自の受容体TNFNRと特異的に結合した。(2)魚類LTβRはもう一つのリガンドであるLIGHTの受容体であった。(3)LTβRの細胞内ドメインは、炎症応答に関与する補助分子TRAF2と結合できるが、二次リンパ組織形成に重要な補助分子TRAF3とはほとんど結合できなかった。それゆえ、魚類は、哺乳類の二次リンパ組織形成に重要なLT/LTβRカスケードが保存されておらず、LT非依存のリンパ組織形成機構が重要である可能性が示された。また、LTは、シーラカンスや肺魚などの肉鰭類に存在することが報告されており、魚類と四肢類の共通祖先において先行するLIGHT/LTβRカスケードに、LTの出現やTRAF3結合能の獲得が起こったことで、二次リンパ組織やその内部構造の複雑化が可能になったと考えられる。
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