平成27年度は形態形質と分子系統解析の結果を照合し、分類学的再検討を行った。その結果、本研究で用いているアオガイ類では、これまでの分類体系が分子系統解析の結果からも支持された。系統関係は、殻高の高低により大きく2つのクレードに分かれることが判明した。得られた分子系統樹に形態形質のマッピングを行った結果、殻高以外には系統と対応する形態形質は確認されなかった。むしろ、生息環境と対応すると考えられる形態形質が複数見つかった。例えば、潮間帯上部に生息する種ほど歯舌嚢が長くなり、下部の種ほど短くなる傾向が明らかとなった。 和歌山県において野外調査を行った結果、研究対象種の微環境選好性の存在が示唆された。これまでは定性的な調査しか行われていなかったが、本研究では、コドラートを用いて緯度経度を測定し、生息域における分布域の重なりを定量的に評価を行った。その結果、それぞれの種の好む場所が明らかとなった。また、種によって分布のパターンが異なることが明らかとなった。具体的には、ある種では密度は低いものの潮間帯に広域に分布し、別の種では潮間帯の一部に局所的に高密度で分布することが明らかとなった。ただし、今回は生息環境の物理的要因(例えば、水深や水温、餌生物など)はデータを得ることができなかった。今後、それぞれの種が好む生息場所を中心として、生息環境のデータが得られれば、より微環境選好性を明らかにできると考えられる。
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