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2014 年度 実績報告書

相手の知らない対象を伝えるコミュニケーションにおける記号システムの文化進化

研究課題

研究課題/領域番号 14J09969
研究機関北陸先端科学技術大学院大学

研究代表者

田村 香織  北陸先端科学技術大学院大学, 知識科学研究科, 特別研究員(DC2)

研究期間 (年度) 2014-04-25 – 2016-03-31
キーワード言語コミュニケーション / 超越性 / コミュニケーション創発 / 類像性 / 描画実験 / 比喩記号システム / 言語進化 / 言語モダリティ
研究実績の概要

相手の知らない対象を伝えるコミュニケーションは,人間言語に特有のものと考えられている.相手が伝えようとしている対象に関して文脈的知識を持たなくてもやりとりが成立する例は,ヒト以外の動物の記号コミュニケーションにおいては報告されていない.相手の知らない対象を伝えるコミュニケーションの成立過程や方略を明らかにすることで,人間言語の進化に関する知見を得ることが期待できる.
近年の言語進化研究において,コミュニケーション創発における類像性の重要性が指摘されている.本研究では描画という対象の形状などの類像性を利用しやすい媒体によるコミュニケーション実験を行い,類像性を足がかりに,相手の知らない対象を伝えるコミュニケーションが成立するまでの過程を分析する.さらに,相手が伝えようとしている対象に関する文脈的知識を持つ場合と持たない場合に相当する課題の比較から,相手が文脈的知識を持たなくてもやりとりを成立させるための方略を明らかにする.
これまで日本語母語話者を対象に描画コミュニケーション実験を行い,最初は類像的であった記号システムが,やりとりを繰り返す中で比喩的なものへと変化する過程を確認した.その過程で,対象間の類似性を利用した代替表現と,経験に基づく随伴的な動作を描いた表現を組み合わせる方略が有効であることを明らかにした.
加えて,日常的に用いる言語の性質的な違いがコミュニケーション創発に与える影響を明らかにするため,日本手話という類像性が高い言語を日常的に使用するろう者を対象とした描画コミュニケーション実験を実施した.ろう者が相手の知らない対象を伝える際,聴者と比較してどのようなコミュニケーション上の違いがあるかを調べ,ろう者では文脈的知識を持つ対象は動作を描いた表現で伝える傾向があるが,文脈的知識を持たない対象を伝える際には決まった方略が見られないことを明らかにした.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当初計画における目標は,描画および人工言語によるコミュニケーション実験の実施と比較分析であった.文献調査を行ったところ,コミュニケーション創発における類像性の重要性および集団のダイナミクスが着目されているという最近の動向が分かった.人工言語によるコミュニケーションは恣意性が高いため,本研究の課題に関するやりとりは難しいことが示唆された.まずは描画に限定した複数人およびろう者を対象としたコミュニケーション実験を行うことで,学術的によりインパクトのある研究成果が期待できる.
日本語母語話者を対象とした描画コミュニケーション実験から,相手の知らない対象を伝えるコミュニケーションが成立するまでの過程で,類像的から比喩的への記号システムの変化が生じることを確認できた.課題間の比較からは,相手が伝えようとしている対象に関する文脈的知識を持たない場合でもやりとりを成立させるために有効な方略を明らかにした.これらの結果から,ヒト言語進化の過程において,相手の知らない対象を伝えるやりとりを繰り返す中で,メタファー・メトニミー的な比喩が記号システムに反映されていく文化進化が生じた可能性を示唆した.
ろう者を対象とした実験では,相手の知らない対象を伝える際,ろう者では聴者と異なる方略を用いることを示した.この結果により,相手の知らない対象を伝えるコミュニケーションには複数の成立過程や方略が存在する可能性が示唆された.また,文脈的知識を持つ対象を伝える際には日常的に用いる言語モダリティの影響が見られるが,文脈的知識を持たない対象を伝える際にはその影響が弱まることが観察された.今後,聴者と対象とした実験との直接比較を行い,今回の結果を検証する.
集団のダイナミクスを調べる複数人を対象とした実験は予備実験の実施にとどまったが,いつでも実験を再開できる状態にあり,次年度での成果が期待できる.

今後の研究の推進方策

引き続き,ろう者を対象とした描画コミュニケーション実験の結果分析を行う.実験結果の分析をもとに,受け手の理解における仮説形成による推論という観点から相手の知らない対象を伝えるコミュニケーションの際に起こる記号システムの文化進化過程を明らかにする.これまでの対象に関する情報の送り手側に着目した定量的分析に加え,情報の受け手側,および両者の相互作用を考慮した定性的分析の枠組みを確立する.
同じ条件で聴者を対象とした描画コミュニケーション実験を実施し,ろう者と聴者のデータを直接比較する.この分析から,日常的に用いる言語の性質の違いががコミュニケーション創発に与える影響について明らかにする.
これまでに予備実験までを実施した集団のダイナミクスを調べる複数人を対象とした実験を再開し,コミュニケーションを行う集団内での情報伝達経路の違いなどの要因が,相手の知らない対象を伝える記号システムの形成に与える影響を明らかにする.

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2015 2014

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件)

  • [雑誌論文] Symbol extension and meaning generation in cultural evolution for displaced communication2014

    • 著者名/発表者名
      Kaori Tamura, Takashi Hashimoto
    • 雑誌名

      THE EVOLUTION OF LANGUAGE Proceedings of the 10th International Conference

      巻: 10 ページ: 326-333

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 言語コミュニケーションにおける超越性の成立に関する実験的アプローチ2014

    • 著者名/発表者名
      田村香織,橋本敬
    • 雑誌名

      計測自動制御学会会誌「計測と制御」

      巻: 53(9) ページ: 808-814

    • 査読あり
  • [学会発表] 描画コミュニケーションにおける比喩の使用 -聴者・ろう者を対象に-2015

    • 著者名/発表者名
      田村香織,橋本敬
    • 学会等名
      言語科学会第17回国際年次大会(JSLS2015)
    • 発表場所
      別府国際コンベンションセンター(大分県別府市山の手町)
    • 年月日
      2015-07-18 – 2015-07-19
  • [学会発表] Conceptualization for Sharing Images in Displaced Communication: A Comparative Analysis of Hearing and Deaf Communities2015

    • 著者名/発表者名
      Kaori Tamura, Takashi Hashimoto
    • 学会等名
      Tokyo Lectures In Language Evolution
    • 発表場所
      東京大学(東京都目黒区駒場)
    • 年月日
      2015-04-02 – 2015-04-05
  • [学会発表] 相手の知らない対象を伝えるコミュニケーションの成立過程を調べる実験的アプローチ2014

    • 著者名/発表者名
      田村香織,橋本敬
    • 学会等名
      第57回LC研究会
    • 発表場所
      国立情報学研究所(東京都千代田区一ツ橋)
    • 年月日
      2014-12-21 – 2014-12-21
  • [学会発表] 言語コミュニケーションにおける超越性の成立に関する実験的アプローチ2014

    • 著者名/発表者名
      田村香織,橋本敬
    • 学会等名
      計測自動制御学会システム・情報部門学術講演会2014(SSI2014)
    • 発表場所
      岡山大学(岡山市北区津島中)
    • 年月日
      2014-11-21 – 2014-11-23

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公開日: 2016-06-01  

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