研究課題/領域番号 |
14J09980
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡村 嘉大 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | スキルミオン / マルチフェロイクス / マイクロ波 / 方向二色性 |
研究実績の概要 |
本研究では、スキルミオンと呼ばれる渦状の磁気構造が発現させる多彩な電磁気応答に注目している。特に、Cu2OSeO3という物質においてスキルミオンが発現するということが近年明らかになったが、この物質はスキルミオン物質の中でも唯一絶縁体であり、磁性と誘電性が強く結合したマルチフェロイクスとしての性質をもつため、電場による磁性の制御など、金属系では試みることのできない方法を用いることができる可能性がある。申請者は、この物質について、本年度は特に、マイクロ波領域の方向二色性を調べた。この方向二色性という現象は、マイクロ波の伝搬方向と磁場が平行になる際に、磁気共鳴の大きさが異なるというものである。マイクロ波の伝搬方向と磁場が平行という条件のもと、さまざまな配置について測定したところ、マイクロ波を[100]方向に入射したときのみ方向二色性は観測された。Cu2OSeO3は立方晶の結晶で異方性がない構造であるから、このような異方性が生じるのは全く非自明なことである。申請者は、Cu2OSeO3の電気磁気応答という観点からこの現象の起源を考察し、その振る舞いを一貫した見方で説明することに成功した。さらには、この解釈を一般の場合に拡張し、マルチフェロイクスの磁気共鳴における方向二色性の統一的な理解を与えるものに昇華させた。また、このマイクロ波領域での方向二色性の観測は本研究が初めてである。この成果について日本物理学会やアメリカ物理学会において口頭発表をし、さらには論文としてまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
先にあげた、マイクロ波領域の方向二色性は博士課程1年において達成するべき目標として掲げていた。実は、その他にもすでに金属系スキルミオン物質におけるマイクロ波応答や電場を用いたスキルミオンの安定性の制御などの実験にとりかかっている。前者に関しては、一般に金属のマイクロ波応答は表皮効果によって測定が難しい。申請者はすでに絶縁体スキルミオン物質においてCu2OSeO3において磁気共鳴の観測に成功しており、その経験をいかして測定を行っている。また後者に関しても、Cu2OSeO3の電気磁気応答をこれまで研究してきた背景があるため、潤滑に研究が進められている。実は、すでにこれらについて、学会発表や論文発表などは行っていないものの、すでに十分議論できるようなデータがそろいつつある。この進捗状況は申請したものをはるかに上回るものと言ってよいはずである。
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今後の研究の推進方策 |
上記の、金属系スキルミオン物質におけるマイクロ波応答や電場を用いたスキルミオンの安定性の制御の二つのテーマについて、ともに論文にできるようなクオリティのデータをそろえる。具体的には、前者について、スペクトルのバックグラウンドが磁場依存してしまい、一見したところ、シグナルかどうか判別しにくいところがある。今後、測定系を校正、調整してよりきれいなスペクトルがとれるように努めたい。後者については、冷却の仕方によってスキルミオン相の広がり方が異なることがわかってきたが、未だスキルミオン相が全温度領域に広がるところまでは達成できていない。冷却方法について試行錯誤することにより、より完璧な電場下の磁気相図を完成させたい。
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