摂食運動は全ての動物に共通する生存に必須の運動であり、生体内・外の環境に依存して複雑に調整される。しかし、複雑な神経系を持つ動物を用いた研究では、各神経細胞が情報処理・運動制御に果たす役割を解析することは難しい。線虫の神経系はわずか302個の同定可能な神経細胞から構成され、個々の神経細胞の接続が記述されていることから、摂食運動を制御するメカニズムを個々の神経細胞のレベルから明らかにできると期待される。本研究では、線虫の摂食運動の指標として咽頭のポンピングに注目し、摂食運動制御機構の解明を目指した。 昨年度までに、ポンピングを記録するための顕微鏡システムのセットアップと解析方法の選定を完了し、自由に動き回ることのできる状態の線虫の咽頭を撮影・解析し、ポンピングの定量的データを得ることができるようになった。 本年度は、ポンピングを制御する神経回路について手がかりを得るため、神経細胞種特異的プロモーターを利用して光作動性プロトンポンプ(Arch)を咽頭内神経に発現させ、特定の神経細胞の活動の抑制がポンピング頻度に与える影響について評価した。この結果、咽頭内14種の神経細胞の中のひとつの神経細胞の活動を抑制するだけでポンピングの頻度が低下することを明らかにした。この神経細胞については細胞破壊実験の結果がすでに発表されているものの、高いポンピング頻度の維持への寄与は大きくないと報告されていた。本研究の結果は、この神経細胞の活動性がポンピングの頻度維持に重要であることを示す初めての報告となる。さらに、この神経細胞から咽頭筋にシグナルを伝える運動神経細胞を探索するため、データベースよりこの神経細胞から直接シグナルを受け取ると記載されている咽頭内運動神経細胞をそれぞれ破壊した。この線虫のポンピング頻度の低下を調べることで、ポンピング頻度制御に重要な役割を果たす運動神経細胞を同定した。
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