研究課題/領域番号 |
14J10007
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研究機関 | 独立行政法人森林総合研究所 |
研究代表者 |
吉川 徹朗 独立行政法人森林総合研究所, 森林植生研究領域, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 種子散布 / 景観構造 / 温帯落葉樹林 / 食性分析 |
研究実績の概要 |
今年度は、大型鳥類をはじめとした多様な果実食鳥を対象として、その種子散布サービスの基礎的側面の解明に取り組んだ。 まず受入れ研究者らとの共同研究において、茨城県北部の広葉樹林の鳥類相および景観構造データの解析から、果実食鳥類の個体数と多様性の空間的変異と決定要因を探った。その結果、果実食鳥全体の種数・個体数を増加させる要因として、林分周辺の景観構造、林分の内部構造および液果量が重要であることを示し、またこれらの要因の重要性が季節により変化することを明らかにした。また同様の分析を鳥類のタイプ(機能群)毎にも行い、大型鳥類の個体数に影響する要因についても明らかにした。以上の分析結果については2015年度前半には国際学術誌に投稿する見込みである。 つぎに果実食鳥の各種について、種子散布についての潜在的な量的貢献度の評価を行った。ここでは市民団体により収集されてきた観察記録の解析から、15種の果実食鳥の食物構成とその季節変動を明らかにした。この解析ではデータ特性に伴うバイアスを考慮する階層ベイズモデルを用いることで、各鳥類種について液果依存度とその季節変化をはじめて定量的に示すことに成功した。その結果、代表的な果実食鳥であるヒヨドリ・メジロで液果依存率が高いことを裏付けたほか、大型のカラス類でも季節的に液果依存度が高くなることを明らかにした。この結果は多様な鳥類が種子散布者として働くこと、とくに大型鳥類が果実採食量について高いポテンシャルを持つことをしめした。これらの結果と新たな食性分析手法の提案をあわせた内容を国際学術誌に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究により、森林生態系における果実食鳥類の種子散布サービスについて、とくにその量的貢献度についての解明が進展した。森林景観における果実食鳥類の個体数を規定する環境要因を明らかにし、散布サービスの空間的変異の様相とその規定要因について基礎的な知見を得ることができた。また日本列島における代表的な果実食鳥類について、散布者機能の量的ポテンシャルとその季節変動を提示し、その全体像を把握することに成功した。とくに鳥類の種ごとの液果依存度については、これまでは経験的な推測にとどまっていたが、その定量的結果を本研究により新たに提示することができた。この鳥類の食物構成の評価は今後の大型鳥類を含めた果実食鳥の種子散布サービスの総合的解明を行ううえで有用である。さらに種子散布サービス以外の鳥類の生態系機能、および鳥類生活史の解明にあたっても基盤情報として活用されると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、これまでに得られた結果を基盤としながら、多様な鳥類の種子散布機能の総合的解明に向けて知見を積み上げていく。これまでの茨城県北部の鳥類相の解析結果から、果実食鳥類の個体数にプラスの影響を与える環境要因として森林の林分条件および森林周囲の景観構造が重要であることが分かり、これらの具体的な特徴を抽出することができた。今後の研究では、これら特定の景観・林分構造を持つ森林のもとで種子散布サービスが促進されているとの作業仮説をもとに野外での調査を進める。具体的には直接観察・自動撮影などの手法により液果の樹木個体ベースでの液果消費量の定量化を行う。これにより果実食鳥の各タイプ(機能群)、とりわけ大型鳥類について、どのような条件の森林において種子散布者としての機能が高くなっているかを解明する。また鳥類の種子散布者としての質的側面(散布後種子の発芽率、種子の体内滞留時間など)の評価も進める予定である。なお上述した今年度の研究成果については、現在論文執筆中であり、今後国際学会でも発表する予定である。発表の際に得られる意見をフィードバックさせながら、研究を発展させていきたい。
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