研究課題/領域番号 |
14J10022
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
加藤 萌 名古屋大学, 博物館, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 冷湧水 / 化学合成生態系 / 棘皮動物 / 古生物学 / 古生態 / 安定炭素同位体比 / 国際情報交換 |
研究実績の概要 |
本年度は主に,冷湧水域における現生棘皮動物の情報を整理すること,冷湧水露頭から産出する棘皮動物化石の骨格の炭素安定同位体比を測定し,化石棘皮動物の古生態を調べることを目的として研究を行った. 北海道中川町にてフィールド調査を行い,上部白亜系蝦夷層群露頭の観察や化石採集を行った.得られた化石サンプルは形態観察を行ったのち一部を粉末試料にし,安定炭素同位体比を測定した.同位体比を測定するにあたり,続成作用の影響を評価するために,化石の薄片を作り偏光顕微鏡下で微細構造を観察し,続成作用の影響が大きいと思われるサンプルは測定から除いた. 炭素同位体比測定の結果,冷湧水露頭から産出した化石ウミユリ骨格は,北海道のものは-30‰前後,サウスダコタの上部白亜系ピエール頁岩の冷湧水露頭から産出したものは-30~-10‰と,先行研究で報告されている現生のウミユリ骨格の炭素同位体比(0~+5‰)よりも明らかに低い値となった.このことから,北海道・サウスダコタ両地域共に,ウミユリは骨格形成の際に冷湧水メタンの影響を受けていた可能性が高い.ウミユリは化石でも現生でも冷湧水域における生物群集として報告されている例はなく,冷湧水環境に生きていたと推測されるウミユリを,化学的根拠を以て初めて見出した. また,冷湧水域における現生棘皮動物の生態観察のために,潜航映像アーカイブスの閲覧とそのデータのまとめを行った.その結果,少なくとも4綱17種の棘皮動物が冷湧水域周辺で生息していることがわかった.しかし冷湧水環境に依存し化学合成を通じて栄養を得ている様子は,映像からでは見受けられなかった.化学合成で栄養を得ること以外に棘皮動物が冷湧水域に生息する理由として,冷湧水メタンが作る炭酸塩岩塊を生息場として利用している可能性が考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
冷湧水域の棘皮動物化石に関する研究は当初の計画通りに進展している.今年度は現地の研究協力者と自身のスケジュールが合わず,予定していたサウスダコタ州でのフィールド調査が行えなかったが,代わりに共同研究者から追加のサンプルを得ることができ,炭素同位体比のデータは予定していたよりも多く得られた.また北海道におけるフィールド調査でも,露頭の情報・化石のサンプル数共に期待していたよりも多くのデータ数が得られ,自身の研究の進展に大きく寄与した. 本年度の研究で得られた冷湧水域に生息した棘皮動物の存在の立証という成果は,冷湧水という特殊な環境で生きる生物群を理解する上で新しい知見をもたらすものであり,非常に重要な結果である.
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今後の研究の推進方策 |
今までと同様に,国内外における冷湧水露頭のフィールド調査・化石採集と炭素同位体比の測定を行う.研究対象フィールドにフランス南西部を加え,アメリカ・ヨーロッパ・アジア(北海道)の3地点における冷湧水棘皮動物相の比較を試みる.冷湧水域に生息する現生棘皮動物の骨格が手に入れば(交渉中)その形態や炭素同位体比のデータも加え,白亜紀から現生への進化過程を考察する.また,続成作用が化石棘皮動物の骨格内における炭素同位体比の挙動にどのような影響を示すのかを,微細構造の保存状態を指標にカテゴリ分けした続成作用の程度と炭素同位体比の値を照らし合わせながら定量的に評価する.加えて,固着基盤としての冷湧水の役割を調べる為に,フィールドに赴き化石生物相や産出数・産上に関しての詳細な調査を行う.これらの研究結果は,6月にスペインで開催されるヨーロッパ棘皮動物会議や国内のいくつかの学会で発表し,論文としてまとめ国際誌に投稿する予定である.
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