本研究では,冷湧水炭酸塩岩より産出する棘皮動物化石を用い,冷湧水域における棘皮動物の進化史や古生態を明らかにすることを大目的とし,昨年度は主に棘皮動物の古生態(食性)を探る手法確立のための飼育実験を行った. 昨年度は,H27年度に行ったウニの飼育実験から得られた「棘皮動物(ウニ)は骨格形成の際に,海水の溶存無機炭素(DIC)と餌の両方から炭素を取り込んでいる」という結果を元に,主な炭素源と考えられる餌と海水DICが,それぞれどの程度寄与しているのかを明らかにするため,また,H27年度の飼育実験の時点で浮上していた「体サイズ(もしくは成長率)がウニの骨格内のδ13C値に影響するのではないか」という仮説を検証するために,大・中・小と3つのサイズ別試験区を設け,エサはオオイタドリで統一し約1ヵ月間飼育した.飼育後,殻と軟体部のδ13C値を測定し,サイズ別に比較を行った.その結果,やはりサイズごとにδ13C値に変化が見られ、成長段階によって餌の殻への影響に差があることが明らかになった.昨年度およびH27年度の実験で得られた結果から,棘皮動物類(ウニ)は骨格の安定炭素同位体比を測定することで,ある程度食性を推定することが可能であることが初めて明らかになった. 今まで行ってきたフィールド調査中心の化石棘皮動物を対象とした研究の結果と,飼育実験を通じた現生棘皮動物の研究結果を合わせて,博士論文としてまとめた.なお博士論文前半の化石中心の話の一部は投稿論文としてまとめ,国際学術誌であるPalaios誌に投稿,受理され,今年度4月に出版された.加えて後半の飼育実験に関した研究の内容は,論文としてまとめ,現在国際誌への投稿に向け準備中である.
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