研究課題/領域番号 |
14J10035
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中尾 篤史 東京工業大学, 大学院理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | マントル対流 / 水輸送 / 海洋プレート / 海溝移動 / スタグナントスラブ / 数値シミュレーション / 含水レオロジー / 背弧海盆 |
研究実績の概要 |
本課題では,数理モデルによりマントル内部水輸送を再現し,その結果から地球マントルの化学進化を解明することを目標としている. 前年度に引き続き,地球内部の水が沈み込み帯のダイナミクス(プレート移動速度・大陸側プレートの応力場・マントルウェッジの圧力場・背弧海盆の拡大の有無・海溝の移動速度・海洋スラブの形状など)に与える効果を流体力学シミュレーションに基づいて調べた.前年度までに得られていた数値解にSIMPLER法を適用してマントル内部の正確な動的圧力場を求めるなど,追加の数値解析を重ね,本研究の信憑性・定量性を向上させた.数値計算の結果をGPS地殻変動データと比較したところ,水の効果により,全世界で観測される沈み込み帯の多様性が再現されるとともに,それらの系統的な関係性が明らかとなった.具体的には,水が多量に存在する沈み込み帯では,浮力に伴う沈み込みの原動力の低下と,プレート同士の力学的結合の低下により,遅い沈み込み速度・海溝前進・海洋スラブの下部マントル崩落・やや深発地震域でのDown Dip Tension型の応力場が同時に発生することを示した.したがってそれらの特徴を兼ね揃えているマリアナの沈み込み帯ダイナミクスが,前弧域で海洋スラブが顕著に脱水していることによって合理的に説明できることを提案した.現段階までに得られた成果はすべて論文にまとめ,国際誌に掲載された. また,次のステップとして,マントル内部において,鉛などの親水性微量成分がいかに分配・輸送・混合されてゆくかを調べるために,化学計算プログラムを前年度に引き続いて拡張した.技術面では,粒子法により分配係数の異なる複数の元素輸送を解けるようになったことと,アルゴリズムの見直しによる高精度化・高速化が主要な進捗である.これにより,前年度の報告書で課題としていた計算コストの問題が解決された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
水輸送と沈み込み帯のダイナミクスの相互作用について論文をまとめる際,海洋スラブ上面やマントルウェッジに働く含水化浮力の効果を解釈することがとりわけ難解であった.海溝近傍の力学を詳細に議論するために,メインプログラムとは別にSIMPLER法コードの構築などを行い,正確なデータを得る必要があると判断した.これは当初の計画にない作業であり,出版に至るまでに予想以上の時間を要した. 一方で,化学成分の輸送モデルについては,申請書に記載した計画以上の内容をこれまでに計算コードに組み込むことができており,次年度に成果があがることが期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
現在までに構築した計算コードでは,架空の化学成分の分別・輸送を解いている.次年度にはプログラムを下記の(1)~(3)のように改良し,その結果を天然の岩石学データ(=同位体比)と比較できるようにし,マントルの化学進化について考察を深めてゆく. (1) 流体輸送モデルの改良.現在までのコードは,水流体の上昇速度を無限大とし,水流体の発生は瞬間的であると近似していた.この条件下では,流体経路における固/液間平衡を無視した元素輸送を解かざるを得ない.流体経路においても平衡が達成されるようにするためには,マントルの各地点における水流体の存在量が必要となるので,流体上昇が無限速度ではなく,浸透率に応じた速度になるよう改良する. (2) 粒子法を用いた水素拡散の導入.マントル構成鉱物内における水素拡散は極めて小さいため,水輸送方程式の拡散項をグリッド上で計算すると,数値拡散が避けられない.そのため,グリッドを介さず,含水率を記録したマーカ間で直接,拡散による水素フラックスを計算する必要がある. (3) 放射壊変系列の導入.ある同位体比(例:87Sr/86Sr)を得るためには,親・娘・安定核種の3種(例:87Rb, 87Sr, 86Sr)について分別・輸送をモデル化する必要がある.親と娘核種はそれぞれに異なる固液間分配係数をもつため,脱水実験データを参照し,モデルに適切に導入する.この分配係数は,固液間における各核種のフラックスの計算上必須である.発生したそれぞれの核種の不均質は,複数の情報を記録するマーカに載せることにより,その輸送を低コストかつ高精度に解くことができる.加えて,時間経過とともに壊変定数に応じて核種が増減する効果を入れる.
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