研究課題/領域番号 |
14J10061
|
研究機関 | 愛知県立芸術大学 |
研究代表者 |
深堀 彩香 愛知県立芸術大学, 大学院音楽研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
キーワード | キリスト教 / イエズス会 / 宣教 / 音楽 / 東洋 / 16世紀 |
研究実績の概要 |
本研究は、イエズス会の16世紀から18世紀の東洋における音楽活動を世界宣教のためのひとつの手段として捉え、音楽という視点からイエズス会の宣教活動の実態を明らかにすることを目的としている。そこで、東洋の宣教地の中でも、とりわけ重要であった、ゴア(インド)、日本、マカオに焦点をあて、研究を進めている。 宣教地での音楽活動の詳細を解明するためには、先行研究に加え、当時、イエズス会士が記した書簡や報告書等の一次資料も非常に重要である。これらの資料は日本国内では入手困難であるため、昨年度は、ローマに約2ヵ月半滞在し、主にイエズス会文書館で資料調査を行った。そこで実際に収集した資料は、以下の4つに大別できる。1、トリエント公会議に関する資料。2、イエズス会総会議の議事録に関するもの。3、ゴアでの宣教活動に関する資料(音楽の他、政治、教育、文化等の宣教に関連するものを含む)。4、その他、本研究に関連する資料。これらの資料を用いて行った考察において、カトリック教会の動向がイエズス会の東洋宣教にも影響を与えていたことが明らかになった。さらに、イエズス会が宣教を重視し、能率の良さと、キリスト教化が期待できる方法であれば採用する姿勢を取っていたことが証明された。この2点は、本研究の核となる非常に大きな成果であった。なお、これらの研究成果は、学会等で発表した。 当時、イエズス会は、対抗宗教改革を牽引する修道会として活動していた。そこには少なからず宗教改革の発端となったルターの影響がある。したがって、当時のカトリック教会の実態と問題点を明らかにすると同時に、ルターの考えも把握する必要がある。そこで、イタリアでの調査後にドイツへ赴き、主にルター派の関連施設に足を運んだ。それにより、これまで蓄積されていた知識が具現化され、本研究の特色である「複眼的な考察」の一翼を担う視点を得ることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね当初の計画通りに研究を遂行し、期待通りの成果を得ることが出来ている。しかし、昨年度は、社会情勢を含めた様々な事情から、ゴアでの資料調査を見送った。当初は、ゴアでの音楽活動に関する部分は、現地での調査を軸に置き、研究を進める予定であった。そこで、ゴアに関する一次資料であり、国内でも入手可能な『Documenta Indica』全18巻を中心に研究を進めることとした。この資料は、当時のイエズス会士が記したインドに関する書簡、報告等を纏め、活字体に起こしたものである。そこに収められている原文は、それぞれ16世紀当時のポルトガル語、スペイン語、ラテン語、イタリア語のいずれかで記されている。そのため、読解に時間を要しているが、今後は協力者の援助を受けながら、円滑に研究が行えるように努めていく。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、研究計画の変更が2点ある。第一は、ゴアでの音楽活動に関する部分の研究方法である。当初の計画では、ゴアに関しては、現地での資料調査を核にしていたが、今後は、国内において入手可能な一次資料である、『Documenta Indica』を中心に考察を行っていく。第二は、研究対象としている期間の変更である。当初は、資料を入手する困難さを考慮し、対象とする期間を16世紀から18世紀として幅を持たせていたが、現時点での資料収集ならびに考察の状況に鑑みると、対象とする期間を狭め、より深く詳細な研究が可能である。本研究の目的や意義、研究としての質を考えても、対象とする期間を絞り、「16世紀半ばから17世紀前半」とするのが相応しいと判断した。 本研究の推進方策としては、まず、ゴア、日本、マカオに関する一次資料を精査し、各宣教地での音楽の使用法に関する議論に注目しながら、音楽をめぐる環境の変遷を追う。その後、3ヶ所の音楽活動の実態を「音楽教育」と「音楽の実践」という点から比較、考察する。宣教地間を比較することによって、イエズス会の活動の複雑な様相と、活動の実態をより詳細に呈示できると考える。 最終的に博士論文としてまとめる際には、音楽というアプローチから東洋宣教の全体像を浮かび上がらせるとともに、複眼的な考察により、イエズス会の宣教活動と音楽との関係を明示する。なお、東洋宣教の音楽活動に関する情報やデータを集約することも、本研究のひとつの意義であると考えている。そのため、博士論文では、一次資料の原文と和訳を引用として載せる。引用する際には、より正確な翻訳作業が求められる。したがって、翻訳に関しては、原文の言語および内容の特殊性を念頭に置き、適切な人材に依頼して協力を仰ぐこととする。
|