研究課題/領域番号 |
14J10064
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
片山 司 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 酸化物薄膜 / トポタクティック / アニオン置換 / パルスレーザー堆積法 |
研究実績の概要 |
今年度は以下の2つの点において研究が進んだ。 【①ペロブスカイト構造を有するコバルト系ヒドリド酸化物薄膜の作製】近年、遷移金属酸化物の酸素サイトへのヒドリド(H-、負の価数を持つ水素イオン)置換が可能になり注目を集めている。しかしヒドリド酸化物は準安定相が多く、合成には困難が伴っていた。本研究では基板からのエピタキシャル歪みを活用することで、新しいヒドリド酸化物SrCoO2Hの合成に初めて成功した。このSrCoO2H薄膜は2つの特異な特徴を有していた。1つ目はこれまで報告されていたペロブスカイト型ヒドリド酸化物とは異なり、金属ヒドリド結合が二次元平面状に拡がっていること、2つ目はこれまでの報告より高いCo価数が得られたことである。これらの成果は、エピタキシャル歪みによる構造安定化効果が新たなヒドリド酸化物合成の有効な合成戦略であることを示している。 【②トポタクティック酸化・還元法によるYBaCo2Ox (x = 4.5-6)薄膜の作製】Aサイト秩序型ペロブスカイトRBaCo2Ox(Rは希土類)は巨大磁気抵抗、スピンクロスオーバー、高酸素イオン伝導など特異な物性を示す。私はYBaCo2Ox薄膜に対しトポタクティック酸化・還元反応を施すことで、従来の報告より酸素量(x)の変化幅を拡張することに成功した(x = 4.5-6)。新たに得たYBaCo2O6薄膜は135 K以下でフェリ磁性金属特性を有しており、これまで報告されていた強磁性金属RBaCo2O6(R= La, Pr, Nd)と異なる挙動を示すことが明らかになった。これはイオン半径の小さなYを使っていること、そして基板からの引張歪みにより格子定数比c/aが小さくなることで、スピン状態が変化したことが原因と考察される。さらにYBaCo2O6薄膜が負の磁化率や磁気抵抗、そして大きな磁気異方性を示すことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
私は「トポタクティック合成法と薄膜固有の特長を組み合わせる独自の合成戦略」によって、新しいアニオン置換酸化物薄膜作製、そして合成手法の開発を積極的に試みている。すでに酸化、還元、フッ素化、水素化の4つの合成手法を確立しており、特にフッ素化手法の開発についてはポスター発表したEMRS国際学会(2014 spring meeting)でも評価され、best poster awardを受賞した。上記新しい合成手法の確立により、従来合成が難しかった化合物の合成が可能になりつつあり、また同化合物で新規物性の発現も大いに期待できる。実際、大きな磁気異方性や負の磁化率を有する材料の発見や、フッ素によるバンドギャップ制御といった物性開拓という面でも大きな進展がみられた。このため当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の2つに焦点を当て研究を進める。【①Aサイト秩序ペロブスカイトRBaCo2O6薄膜の物性解明】今年度、私はYBaCo2O6薄膜において従来とは異なる物性を示すことを明らかにした。この物性変化の起因として格子定数比c/aの値が小さくなりスピン状態が変化したことが考えられるが、これまでスピン状態の変化を直接観測するまでには至っていない。そこで今後は低温でのX線吸収分光法を用いて、フェリ磁性YBaCo2O6薄膜と強磁性LaBaCo2O6薄膜のスピン状態を観測し考察を深めていきたい。【②新たな低温トポタクティック窒化法の開発】これまで酸化物から酸窒化物を低温トポタクティック法で合成する手法は開発されていなかった。これはアンモニアを窒化剤として使用すると高温反応となりやすいこと、そして窒素が酸素に比べてイオン結合性に乏しく、低温ではイオン伝導度が小さいことに由来していると考えられる。そこで私は①窒素供給源をアンモニアから金属アミド(LiNH2など)に変え、さらに②高いイオン伝導度が必要ない薄膜を対象とすることで、低温トポタクティック窒化法を確立したい。
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