今年度は以下の2つの点において研究が進んだ。 【①ペロブスカイト鉄酸フッ化物SrFeO3-xFx薄膜の電子状態解明】ペロブスカイト鉄酸化物は光触媒や光起電力など様々な光機能を示す。その様な化合物のバンドギャップ制御を行う手法として、近年酸素サイトへのアニオン置換が注目を集めている。今回私はSrFeOx薄膜にフッ素を入れる手法を開発し、フッ素量制御に成功した。またフッ素量の異なるいくつかのSrFeOxFy薄膜を作製し、その光学バンドギャップを測定することで、系統的な光学特性を観察した。バンドギャップはフッ素量増加と共に増大し、SrFeO2FではLaFeO3よりも広いバンドギャップを持つことが明らかになった。理論計算を行った結果、このバンドギャップ拡張がフッ素によるボンド角の大きな曲りに起因することが示唆された。また光電子分光測定により電子状態を観測し、理論計算を補佐する結果を得た。これらの結果はApplied Physics Expressの注目論文(Spotlight)に選ばれた。 【②ヒドリド酸化物SrVO2H薄膜の電子状態観測】ヒドリドは負の価数を持つ水素イオン(H-)であり、近年高イオン伝導や超伝導の発現で注目を集めている。新しく報告されたSrVO2HはVO2面が2次元的に拡がり、V-Hボンドが直線に並ぶペロブスカイトでは初めての構造を有していた。今回私はSrVO2H薄膜をSrTiO3単結晶基板上に作製することに成功した。SrVO2H薄膜はc軸配向しており、V-Hボンドが面直方向に揃っていることが明らかになった。またX線吸収測定、光電子分光測定からバナジウムの価数が3価であることを確かめた。これは水素がH-として存在していることを示している。さらにヒドリド置換によりSr 3dの結合エネルギーが低エネルギー側にシフトすること、そして絶縁体転移することを見出した。
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