研究課題
糖代謝に対するヒト褐色脂肪組織(BAT)の生理学的・病理学的意義、およびそれらの制御メカニズムについて検討した。BAT活性を調べるために寒冷刺激を組み合わせたFDG-PETを行った健常者のデータを再解析し、BAT活性を評価し、血中脂質や血糖値、HbA1cとの関連を解析した。その結果、BAT活性は年齢、性別とは独立してBMI、体脂肪量、内臓脂肪量、血糖値、HbA1c、TG、T-Cho、non-HDLの有意な規定因子となっていた。血糖値とHbA1cに対するBATの影響は、BMI、体脂肪量、内臓脂肪量で補正してもなお有意であった。BAT活性の低い被験者5名対象とし、BATを再活性化・増量できる食品成分カプシノイドを6週間摂取する前後に室温27℃と室温19℃の2条件で75g経口糖負荷試験(OGTT)を実施した。血糖値の曲線下面積は室温19℃の寒冷刺激で僅かに小さくなったが、カプシノイドの影響については一定の傾向がみられなかった。BAT増量のメカニズムにはいくつか不明な点があり、これを明らかにすることは効果的なBAT増量法を考案するために重要である。BATの過形成に骨髄由来の幹細胞が関与するかどうかを調べた。マウスを4℃の寒冷環境に1日、3日、または5日間曝露させ、脂肪組織中の前駆脂肪細胞数の変化をFlow cytometryを用いてより調べた。BATでは寒冷刺激に応じて前駆脂肪細胞が増加した。同様に、beige脂肪細胞が現れるそけい部WATでも増加したが、現れない生殖器周囲WATでは変化しなかった。
2: おおむね順調に進展している
健常者における横断解析により、BATと糖代謝の関連を示唆する一定の成果をあげ、得られた研究成果を原著論文にまとめ英文誌に投稿し、これが受理された。学会発表も、筆頭演者として国内学会にて5件(うち3件は招待講演)、国際学会にて2件(うち1件は招待講演)と活発に行い、このうち国際学会にて口頭発表した1件は若手研究者奨励賞(YIA)を受賞した。このように一定の成果は得られてたものの、マウスを用いた実験では残された課題も多い。BAT増量法の詳細なメカニズム、特に骨髄からの未分化細胞の供給の有無を明らかにするため、今後、放射線照射等で骨髄由来幹細胞を破壊した時にも同様のことが起こるか否かを調べる予定である。
健常ボランティアを対象としたOGTTを継続して行ってN数を増やし、BATが活性化した際に耐糖能に影響を及ぼすか否かを直接的に検討する予定である。また、BATを増やすことができる温度感受性TRPチャネルのアゴニスト成分を用い、これをBAT低活性者に6週間程度摂取させ、BAT増量により耐糖能が改善するか否かを検証する予定である。さらに、この時に採取する血液サンプルを用い、FGF21やIL-6の濃度を測定する。FGF21やIL-6はBATからも分泌されることが知られている。寒冷刺激により、BAT活性依存的にFGF21やIL-6の血中濃度があがり、耐糖能もより改善された場合、BAT由来のこれらの液性因子が耐糖能に関与していると結論する予定である。寒冷刺激によるBATの過形成に骨髄が関与しているかを調べるため、寒冷応答性に白色脂肪組織(WAT)中に現れる第二の褐色脂肪細胞(beige脂肪細胞)との関連をFlow Cytometryで引き続き、調べる。さらに、GFP Tgマウスから採取した骨髄細胞をWTマウスに移植することで、骨髄由来細胞がBATやWATに輸送されるか否か、輸送された場合、それが脂肪組織の増大に関与するか否かを調べる。
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