研究実績の概要 |
ヒトBATの耐糖能制御作用を調べるため、BAT活性の高い被験者と低い被験者を対象に75g経口糖負荷試験(OGTT)を実施した。その結果、寒冷刺激により糖負荷後の血中グルコース濃度の上昇は緩やかになり、特にBAT高活性者の方がその変化量が大きい傾向にあった。これらの結果から、ヒトBATが糖代謝制御に寄与していることが示唆された。肥満者や糖尿病患者においてもBATを増量できるとの最近の知見も併せると、BATの増量が糖尿病予防にもつながる可能性があると思われる。 近年、骨髄由来の幹細胞が白色脂肪組織(WAT)に供給され、多房性脂肪滴を持つ細胞に分化することが示唆された。WAT中に出現する褐色脂肪様細胞はベージュ脂肪細胞と呼ばれている。ヒト成人のBATは主にベージュ脂肪細胞で構成されているため、ヒトBATの効果的な増量法を探るためにはこの骨髄-ベージュ脂肪細胞の関係を明らかにすることは重要である。そこで、C57BL/6Jマウスに放射線8Gyを照射して骨髄細胞を損傷させ、他のC57BL/6Jマウスから採取した骨髄細胞を移植する群(BMT群)と移植しない群(non-BMT群)に分け、褐色脂肪細胞とベージュ脂肪細胞を増加させる薬剤であるβ3アドレナリン受容体作動薬(CL316,243, 以下CL, 0.1mg/kg)を3日間投与し、マーカー分子UCP1の発現量を調べた。放射線を照射しなかった対照マウスではCL投与によるUCP1上昇がBATとそけい部WATの両方で認められた。しかしnon-BMT群では、CL投与によりBATではUCP1発現量が上昇したものの、そけい部WATでは認められなかった。一方、BMT群ではBAT、そけい部WATいずれでもUCP1発現量の上昇が認められた。骨髄由来幹細胞が褐色脂肪細胞の増量には寄与しないが、ベージュ脂肪細胞の増量には寄与することが示された。
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