研究課題/領域番号 |
14J10112
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤田 貴啓 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | パイロクロア型酸化物 / イリジウム / 反強磁性体 / 磁気輸送特性 / 新奇電子相 / 薄膜作製 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、希土類元素(Ln)とIrを含むパイロクロア型酸化物Ln2Ir2O7の物性解明と、その薄膜化による工学的応用である。この系においては、Ir原子由来の強いスピン軌道相互作用と、結晶構造由来の幾何学的制約により、「all-in-all-out」と呼ばれる特異な磁気構造や「Weyl Semimetal相」と呼ばれる3次元Dirac電子相の発現が報告されている。この電子相中の電子は、完全にスピン偏極した質量0のDirac粒子的に振る舞うため、高移動度のスピントロニクスデバイスとしての応用が期待できる。。 パルスレーザー堆積法と固相反応エピタキシー法を組み合わせることで、単結晶Eu2Ir2O7薄膜の作製に初めて成功した。磁気輸送特性の測定から、「all-in-all-out」磁気構造に特徴的な磁気応答に対応した抵抗変化が現れることを発見した。また、その変化が「all-in-all-out」磁気構造に内在する「all-in-all-out」と「all-out-all-in」という2つの磁気ドメイン構造に起因していることを確認し、磁場冷却によって制御可能であることを示した。これらの結果は「all-in-all-out」磁気構造並びに、そこに内在するドメイン構造を、電気的な測定手法によって同定した初めての報告となる。従来の同定には大規模な放射光施設が必要とされたため、実験室系で検証可能な本成果は、本系の物性研究を大いに促進することが期待される。 また、同作製方法を異なる希土類元素にも応用し、同様に単結晶薄膜が作製可能であることを確認した。さらに、希土類元素の持つ磁気的性質の違いに応じて、磁気ドメイン構造を冷却磁場や掃引磁場によって制御出来ることを確かめた。これらは将来的に積層構造の試料を作製する際に重要となると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していた年次計画である薄膜作製の条件探索に関しては、幅広い希土類元素に対してパイロクロア型酸化物Ln2Ir2O7が作製可能な条件を最適化することが出来た。 物性に関しては、「Weyl Semimetal相」の発現を裏付ける結果こそ得られなかったものの、「all-in-all-out」磁気構造、およびその磁気ドメイン構造に起因した磁気輸送特性を明らかにすることに成功した。また、希土類元素の持つ磁気的性質の違いに応じて、磁気ドメイン構造を冷却磁場や掃引磁場によって制御可能であることを見出した。そうした異なる磁気的性質をもったLn2Ir2O7の積層構造を作製し、それぞれの層のドメイン構造を独立にコントロールすることで、磁気ドメイン境界に現れる金属的な伝導状態の観測にも成功した。 これらは当初予見されていなかった新たな発見であるため、本研究は当初の計画以上の進展を見せていると判断するものである。
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今後の研究の推進方策 |
以下の三つの展望を考えている。第一に「Weyl Semimetal相」の発現を検証することである。これには角度分解光電子分光法などの、本研究室では不可能な測定が不可欠となるため、共同研究を検討している。第二に磁気ドメイン境界で観測された金属伝導についてである。現在観測されている伝導度は量子伝導度の1%程度に過ぎないため、これを量子伝導度に近づけるべく、構造や作製条件の最適化を図っていく予定である。第三にデバイス構造の作製についてである。当初はトランジスタ構造によるキャリア濃度の変調を考えていたが、試料が元来持っているキャリアが想定外に多かったため、現実的ではないことが分かった。代替案として、本年度で明らかになった磁気ドメインと磁気輸送特性との関係に着目し、磁気ドメインサイズ程度の微小な素子を作製することで、単磁気ドメインを利用した興味深い実験や応用につながることを期待している。
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