研究課題
申請者は本年度、"近赤外線を用いた大質量星原始星のモニタリング観測"及び"次期大型中間赤外線観測装置の光学系開発"を行ってきた。前者は、申請課題の最終目的である中間赤外線による大質量星原始星モニタリング観測に先駆け、国内望遠鏡での近赤外線観測を行った。中間赤外線は大質量原始星に付随する降着円盤からの熱放射を主に観測し、変光検出による原始星への質量降着過程の解明が期待される。一方、大質量原始星から観測される近赤外線は、原始星からの放射が、原始星に付随するエンベロープ内の空洞にて散乱される光だとされる。即ち、近赤外線散乱光は原始星由来の放射をモニタリングできる。これは、中間赤外線モニタリングと相補的関係になる。本年度、申請者は大質量原始星の近赤外線長期間高頻度モニタリングを3天体に対して行い、各天体で初めて近赤外線の光度変動現象を検出した。これは大質量原始星進化や、付随円盤・エンベロープの構造を探る上で非常に興味深い結果である。後者は、光学系開発において重要な要素である光学調整作業を行った。次期中間赤外線観測装置は幅広い観測波長を達成するため反射光学系で設計されており、光学調整で非常に高い設置精度が要求される。申請者はこれまでの研究にて高精度の設置調整手法を開発・確立しており、本年度もこれを用いて光学調整を行った。また、中間赤外線用反射光学系に用いる鏡は通常、高反射率のために金蒸着のなされたアルミ材が用いられる。しかし、金蒸着アルミ鏡は室内環境下では電解腐食が鏡表面に発生しやすく、長期保存が困難であった。腐食を防止し且つ反射率を損なわず、加えて装置の運用される極低温下(20K)で安定した保護膜の調査及び試験を申請者は行った。結果、SiO保護膜が有望であるとの結果が得られた。更に、極低温下での金属熱収縮による鏡面変形を抑える鏡の固定方法を試験し、最適な固定方法を見つけ出した。
2: おおむね順調に進展している
まず、次期中間赤外線観測装置の開発については、今年度中に光学系の開発が完全には終了しなかったものの、平成27年度5月までには完了予定であるためおおきな支障は生じていない。加えて、本年度までに鏡の最適な保護膜の選定や、固定手法の確立が申請者によって行われており、今後の光学系の開発・運用がより安定したものになる事が担保された。観測面においては、最終的な目標である中間赤外線による大質量原始星のモニタリング観測に先駆けて近赤外線のモニタリング観測が行われており、実際に光度変動を検出することに成功している。これは広く赤外線波長域での大質量原始星の時間変動現象を探る上で重要な発見である。また、上述したように近赤外線の観測で得られる情報は中間赤外線で得られる情報と大質量原始星と付随する円盤・エンベロープを含む系全体の構造・進化を解明する上で相補的な関係にある。従って、単に隣接する波長域での時間変動現象の発見にとどまらず、本年度の観測成果は研究課題の達成に向けて重要な観測結果を得たと考えられる。
平成27年度の前半までに次期大型中間赤外線装置は光学系の開発も含めて完了する予定である。この装置はすばる望遠鏡に搭載され、その試験観測時に大質量原始星の中間赤外線モニタリング観測も行われる予定である。また、試験観測時の測光精度などの装置性能評価も申請者が行う予定である。装置性能評価の結果は投稿論文として発表する予定である。中間赤外線での時間変動現象が検出された際には、その詳細を解析し、大質量原始星進化とそれに伴う付随円盤の変化について考察を行い、投稿論文として発表する予定である。また、平成26年度に近赤外線で検出された光度変動現象について、初検出の報告と、その原因の考察を含めた論文を平成27年度中に投稿予定である。加えて引き続き国内望遠鏡を用いた近赤外線での大質量原始星の長期間高頻度モニタリング観測は継続する予定であり、新たに5天体ほど観測対象を増やす予定である。この際、可能ならばすばる望遠鏡での中間赤外線観測との同時モニタリング観測を行い、異なる波長での時間変動現象の差異の有無を調査し、光度変動原因のより詳細な議論を行う事を計画している。
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Proceedings of the SPIE
巻: 9151 ページ: 43
10.1117/12.2054917
巻: 9147 ページ: 3C
10.1117/12.2056184