研究課題
In vitroにおいて、正常な体細胞はDNAダメージを受けると細胞老化を起こすことが知られている。近年、in vivoにおいても細胞老化を起こした細胞(老化細胞)が加齢に伴い蓄積していることが明らかにされ、老化細胞の蓄積が加齢性疾患の原因の一つではないかと考えられるようになってきている。また、発がんストレスにより細胞老化が引き起こされると、老化細胞に対する免疫応答の存在を示唆する研究が報告されてきている。そこで、本研究課題では、加齢に伴う様々な難治疾患の予防・克服を最終目的とし、生体内で老化細胞が蓄積すると加齢性疾患を発症するのか、免疫細胞はどのように老化細胞を認識・除去しているのか、なぜ加齢に伴い免疫系の攻撃を回避した老化細胞が蓄積するのか、の解明に取り組んでいる。生体内で細胞老化を誘導できるマウスが完成し、そのマウスを用いて老化細胞が生体内に蓄積により誘導される表現型を調査した。タモキシフェン(TM)投与によって全身でp16Ink4aの発現を誘導できるマウス(p16-Tgマウス, R26-CreERT2;CAG-LSL- p16-IRES-DTR-GFP)は、誘導後4ヶ月で脱毛など個体老化で見られる変化が観察された。また、TM投与によって全身でHRASV12の発現を誘導できるマウス(HRAS-Tgマウス, R26-CreERT2; CAG-LSL-HRASV12-IRES-DTR-GFP)では、誘導後3~4週間で衰弱死することが判明した。免疫系における老化細胞の除去・認識メカニズムを探るため、まずは、生体内で誘導された老化細胞がどのようなタイミングで減少するのか、または維持されるのか、を継時的に観察した。p16-Tgマウスにおいて、GFPをもとに、末梢血中にどれだけ老化細胞が存在するかモニターした。TM投与によって誘導された老化細胞の割合は、誘導直後から2~3週後には半減してしまったが、その後は15週後まで老化細胞が維持されていた。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の肝にあたるp16-TgマウスとHRAS-Tgマウスが完成し、生体内での細胞老化誘導とそれに伴う個体の表現型が観察できたことは大きい。生体内で急激に誘導された老化細胞の挙動についても、実験系が固まり、老化細胞が免疫系により除去されるのか、そのまま維持されるのかについて観察できるようになったことは進展である。また、昨年度から引き続き、本研究課題のin vivo imagingのデータから派生して、担がんマウスにおいてmyeloid-derived suppressor cell (MDSC)が細胞老化の機能的マーカーであるp16Ink4a及びp21Cip1/Waf1を発現しており、がんの進展を促進する機能を持っていることを発見し、そのメカニズムを探った。これによりMDSCのがん部への遊走能にp16Ink4a及びp21Cip1/Waf1が関与しており、腫瘍の進展に影響していることが判明した。この結果は現在投稿準備中であり、一つの大きな成果である。
p16-TgとHRAS-Tgにおいて、生体内に細胞老化を誘導した際に観察される表現型をより広く、深く探るために、血清の生化学検査を実施する予定である。また、HARS-Tgマウスは早期に老衰死してしまうので、TMの投与量を減らし、誘導する老化細胞数を減らすことで、死亡せずに老化細胞が蓄積した状態を維持できる条件を見つけ出す。誘導された老化細胞の挙動については、4-OHT皮膚塗布による皮膚の表皮で老化細胞を作り出し、GFPを指標に継時的にモニターする。特にp16過剰発現型とHRAS過剰発現型との違いに着目し、細胞老化が誘導される機構が違えば、老化細胞の挙動も違うのか検討する。また、GFP陽性細胞を単離し、p16過剰発現型老化細胞とHRAS過剰発現型老化細胞との間で遺伝子発現に違いがあるかRNA-seqによって比較する。老化細胞が除去される場合には、除去に関わる細胞種を免疫組織化学染色法によって絞り込み、depletion抗体を使用し同定する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件)
Aging Cell
巻: 14 ページ: 616-624
10.1111/acel.12337.
Nature Communications
巻: 6 ページ: 7035
10.1038/ncomms8035.