研究課題
申請者らは今年度ミトコンドリア呼吸鎖複合体阻害薬(OXPI)と腫瘍幹細胞性の関連の評価及びOXPI感受性及び細胞増殖抑制に関わる因子・シグナル経路の探索を目的として研究を行った。腫瘍幹細胞性とOXPI感受性に関しては未だ検討中ではあるが、OXPIへの感受性に関わる因子・シグナル経路として、OXPIによる細胞内ニコチンアミドアデニンヌクレオチド(NAD)減少を新たに見出した。OXPIであるメトホルミン感受性犬悪性乳腺腫瘍株では、これまでに知られてたAMPKの関与による増殖抑制以外のメカニズムが存在することが示唆されていた。そこで申請者らがメトホルミンによる呼吸鎖複合体1の阻害、及びそれに伴うNADHからNADへの変換阻害に着目し検討したところ、薬剤暴露によって細胞内NADが有意に減少することがわかった。また外部からのNAD添加によりメトホルミンによる細胞増殖抑制効果が減少することを発見した。NAD添加により細胞内のNAD濃度の回復も認められた。申請者らはまた網羅的な遺伝子発現解析から感受性株におけるメトホルミンのAMPK非依存的な作用機序が細胞周期の進行抑制であることを見出した。メトホルミン暴露に伴い細胞内のCyclinD1量が減少し、Rbタンパクのリン酸化度合いも減少した。さらにこのメトホルミンによる細胞周期進行の抑制はNAD添加によって有意に回復することが判明した。
2: おおむね順調に進展している
申請者らは当初の計画通り網羅的遺伝子探索によってミトコンドリア呼吸鎖阻害薬(OXPI)であるメトホルミンが感受性株において細胞周期の進行を抑制している可能性を発見し、すでに確認されていたG0/G1周期での細胞周期停止の制御分子としてCyclinD1, Rbの関与を確認した。またこのような細胞への影響を与える理由として、新たに細胞内のニコチンアミドアデニンヌクレオチド(NAD)量に着目し、この関与を確認するに至った。これらの結果はメトホルミンの細胞障害機序として全く新規のものであり、研究の成果は大きいと考えられる。またNADは細胞内の様々な分子の活性にかかわっているため、この発見を足掛かりにして感受性細胞の表現形ひいてはOXPIの感受性マーカーとなる分子の同定に至る可能性がある。したがって、当初の腫瘍細胞中の幹細胞分画に関する検討を行うという予定とは異なっているが、研究は順調に進行していると考えている。
NADはPARP、SIRTなど多くの分子の働きを調節する因子である。PARP,SIRTともに細胞内では損傷遺伝子の修復などに関わっていることが知られている。このような働きは幹細胞分画で最も高まると考えられる。したがって今後は細胞内NAD依存的分子の腫瘍細胞における働きやそれらと幹細胞性、OXPI感受性に関する検討を追加していく。具体的にはメトホルミン添加後の細胞内ポリADPリボシル化分子の定量や、SIRT、PARP分子の発現と薬剤感受性の相関、これらの分子を欠損させた時の細胞表現形変化や薬剤感受性変化に関する検討を追加する。
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