研究実績の概要 |
本研究では(1)原子核構造の解析を行い、得られた原子核の波動関数を用いて(2)シッフモーメントの計算を行った。本年度は主に質量数130領域の原子核を扱った。 (1)原子核構造の解析に関して:本研究の目的は質量数130領域の原子核構造を解析し、それらの系統的な性質と個々の原子核の構造を明らかにすることである。原子核を記述する模型として核子を微視的に扱う殻模型を用いた。まず質量数130領域(Sn, Sb, Te, I, Xe, Cs, Ba アイソトープ)の原子核のエネルギーレベルを系統的に再現する有効相互作用の設定を行った。次に原子核の性質を表す電磁遷移確率やモーメントを計算し、実験値との比較を行った。またこの領域に多く存在する、ナノセカンド以上の半減期をもつ原子核の励起状態であるアイソマー状態に対する解析を行った。その結果アイソマー状態ごとで、粒子の整列の影響や粒子の組む配位の差異など様々な理由が重なりアイソマーになっていることが分かった。 (2)シッフモーメントの計算に関して: 粒子の電荷分布の偏りを表す電気双極子モーメント(EDM)は時間反転(T)対称性を破る物理量であり、EDMの存在はT対称性の破れを意味する。中性原子の電気双極子モーメントを与えるモーメントが原子核のシッフモーメントである。本研究の目的は原子核のシッフモーメントを数値計算し、そこから中性原子の電気双極子モーメントを見積もり、素粒子の標準模型から示唆される結果と比較することにより標準模型の検証を行うことである。今年度は主にXeアイソトープを扱った。本研究では今まで考慮していなかった、原子核において粒子がすべて詰まっている状態(コア)からの粒子の励起の影響を取り入れた。その結果空いている上の軌道へ粒子が励起する影響よりも、原子核のコアから粒子が励起する影響が大きいことがわかった。
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