研究実績の概要 |
本研究では(ⅰ)原子核構造の解析を行い、得られた原子核の波動関数を用いて(ⅱ)シッフモーメントの計算を行った。 (ⅰ)原子核構造の解析:本研究の目的は質量数200領域(Pb, Bi, Po, At, Rn, Fr アイソトープ)の原子核構造を解析し、それらの系統的な性質と個々の原子核の構造を明らかにすることである。原子核を記述する模型として核子を微視的に扱う殻模型を用いた。原子核の性質を表す電磁遷移確率やモーメントを計算し、実験値との比較を行った。またこの領域に多く存在する、ナノ秒以上の半減期をもつ原子核の励起状態であるアイソマー状態に対する解析を行った。その結果アイソマー状態ごとで、粒子の整列の影響や粒子の組む配位の差異など様々な理由が重なりアイソマーになっていることが分かった。さらに新しい相互作用の必要性や1粒子エネルギーの粒子数依存性などに関して議論を行った。 (ⅱ)シッフモーメントの計算: 粒子の電荷分布の偏りを表す電気双極子モーメント(EDM)は時間反転(T)対称性を破る物理量であり、EDMの存在はT対称性の破れを意味する。中性原子の電気双極子モーメントを与えるモーメントが原子核のシッフモーメントである。本研究の目的は原子核のシッフモーメントを数値計算し、原子のEDMを見積もることである。本年度はXeアイソトープに対してシッフモーメントの計算を行った。さらに計算したシッフモーメントと、素粒子の標準模型から導かれるT対称性の破れの強さを用いて129Xe原子のEDMの大きさを見積もった。その結果、現在の実験の精度では観測不可能な小さな値が得られた。また計算したシッフモーメントと、129Xe原子、199Hg原子、TlF分子のEDMの実験の上限値を用いT対称性の破れの強さの上限値を見積もった。
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