平成27年度には、日本植民地時代後半から急速におこなわれた原住民族への同化政策に着目し、1950年代から起こった彼(女)らのキリスト教への大規模な改宗について、そこに至ったアミの人々の世界認識の変遷過程、「神」認識、論理を検討することを目的として研究を進めた。 6月の学会発表では、アミの人々が日本植民地時代に経験した天照大神との「遭遇」とそれによる世界観の変動について、前年度までの調査で収集したオーラルヒストリーに重点を置いて分析し、報告したのち、得られたコメントを受けて、日本国内で史料収集をおこなった。8月には、これまでの調査地であるアミの村落において約1ヶ月のフィールドワークをおこない、日本植民地時代終了後から1940年代後半にはじまったキリスト教宣教期までの宗教的状況、キリスト教とそれ以前の日常的実践とに見出された齟齬、競合、変化、それに対する当事者の論理について検討した。9月には、アミへのカトリック宣教の中核を担った宣教会の本部で資料収集をおこない、非キリスト教文化圏におけるいわゆる「キリスト教化」への人類学的視座と研究方法を再考するきっかけを得た。帰国後、国内外のシンポジウムに出席するなかで、自分の研究課題を整理・再評価し、2016年2月から再度1ヶ月のフィールドワークをおこない、主に世界観の変動や改宗を考えるうえで不可分なキリスト教教義と用語の「翻訳」の問題に関し、関係者にインタビューした。調査結果については、引き続き分析をおこなっている。 この2年間の報告者の研究は、台湾原住民族のキリスト教への改宗においてこれまでおこなわれてこなかったものであり、文化人類学的キリスト教研究、宗教学、神学的改宗研究においても、「キリスト者としての日常」が形作られ、運用されてきた様態の解明に貢献できるものであると考える。
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