研究課題/領域番号 |
14J10460
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
藤川 鷹王 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 構造有機化学 / 多環性芳香族化合物 / ヘリセン / キラル |
研究実績の概要 |
前年度に引き続きツイスト型非平面多環性芳香族化合物(PAH)の合成研究を行っていた。これまでの成果として、チオフェン構造を有するπ拡張ダブルヘリセンおよびシングルヘリセンの作り分けに成功していた。本年度では更なる条件検討の結果、新たに4つのヘリセン構造を同一分子内にもつクアッドヘリセンの合成を達成した。本分子はその螺旋不斉に由来した計5つのジアステレオマーをもち、これらは立体構造に起因した異なる光・電子物性を示す。また、サドル型異性体のナフタレン骨格は類を見ない捻れ構造を示し、一つのベンゼン環換算で世界最大となる35度の捻れ角を示す。このように極めて特徴的な非平面かつキラルなπ電子系の創製は構造有機化学分野の発展に寄与するだけでなく、機械的刺激や熱刺激に応答する高分子材料・分子スイッチング素子・円偏光発光材料などへの応用性も秘めている。また本研究の主題である三次元ナノカーボン物質の構成単位としても期待できる。以上のように、最初期とは全く異なる研究展開ではあるものの、多分野への発展性をもつ独自の分子系を確立することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ヘリセンは芳香環が螺旋状に縮環した非平面π共役化合物であり、キラル非平面構造に由来した物性に興味がもたれてきた。今年度は新たに多重ヘリセンであるクアッドヘリセンの合成を達成した。 チオフェン構造を有するポリアリレン前駆体の酸化的縮環反応を検討している際に、モレキュラーシーブス共存下、塩化モリブデンを酸化剤として用い、同一分子内に4つのヘリセン構造を有するクアッドヘリセンの合成に成功した。この分子は2つの[5]ヘリセン構造とジチア[6]ヘリセン構造をもつため、4セットのエナンチオマー対と1つの光学不活性なメソ異性体を含む合計9つの構造異性体をもつ。この内、プロペラ型異性体とサドル型異性体の2種類については単結晶X線構造解析により構造決定した。驚くべきことに、サドル型異性体のナフタレン中心は捻れたアセン類として過去最大となる69.5°の捻れ角をもつ。これは4つのヘリセン構造がそれぞれナフタレン中心に対して同一方向の捻れ歪みを与えた結果である。ベンゼン環一つあたりの捻れ角としても35.3°の捻れ角を示し、今まで合成された非平面芳香族分子の中で最も捻れた構造を有する。同時に、これらの構造的な変化に基づく光物性・電気化学的特性・キロプティカル特性に加え、計5種類のジアステレオマー間の立体化学的関係性とその相互変換経路を明らかにした。本分子の存在は非平面π共役系の化学に一石を投じるものであり、また応用面としても円偏光発光材料等への利用が考えられる。さらには本研究課題の主題となる三次元ナノカーボン物質の創製に対しても有効なビルディングブロックとなる鞍型π共役系を開発できたと言える。最終年度に於いては、これまでに合成した種々のπ拡張マルチヘリセン類の機能性材料としての側面を伸ばして行きたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度新たに合成したクアッドヘリセンは複数の異なる熱力学的安定性を示す異性体をもつ。もしクアッドヘリセンを高分子材料中に組み込むことが可能となれば外部からの圧力などの機械刺激、あるいは熱刺激に応答してマクロな刺激応答挙動を示す新しい機能性材料を創出できる。そこでまずクアッドヘリセンの修飾を行いポリマー化を可能とする官能基を付与する。具体的には適切なポリアリレン前駆体からの酸化的脱水素反応によりアルコキシ置換基を有する分子を設計、もしくは現在得られているクアッドヘリセンからC–H結合活性化反応によりボリル化反応を行う。続いて得られた修飾化クアッドヘリセンを適切な重合条件に伏すことで三次元ポリマー化を行う。得られたポリマーの熱応答性や圧力応答性については粉末X線回折や分光学的手法により調査する。 そのほかマルチヘリセン研究の有機エレクトロニクス材料としての可能性を探る目的で、現在まで得られているπ拡張ダブルヘリセン類、クアッドヘリセン類の有機電界効果トランジスタを作製し電荷移動度を測定する。
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