研究課題/領域番号 |
14J10522
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
不破 麻里亜 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 量子情報 / 量子光学 / ハイブリッド量子テレポーテーション / 単一光子 / 量子トリット / 量子エラーコレクション |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,ハイブリッド技術を用いて大規模量子計算機である量子コンピュータを実現するに当たって問題となる実験系の肥大化・複雑化を解決するために,同一量子素子を繰り返し使用することで,系の合理化・小型化を図ることであった.しかし,実際には「光子が失われることに対する量子エラーコレクション」が最重要課題であることが浮き彫りになった.そこで本研究では,光子数を増やすことで量子ビットの情報に重複を与え,量子エラー訂正を実現することを目指す.本年度では,その第一歩を踏み出した(成果3). 以下,「ハイブリッド量子情報処理の実用化に向けた研究」の実績を示す. (1) 条件付けによる量子テレポーションの高精度化に成功し,成果をPhys. Rev. Lett.に掲載:無限のエネルギーの必要性によって,ハイブリッド量子テレポーテーションの精度が制限されてしまう問題がある.これを,確率的な事前選択による条件付け機構を導入することで解決する方法を共同研究で開発し,単一光子状態に対して実験的に実証した. (2) ハイブリッド技術で学術的に意義のある物理現象を検証し,成果をNature Communicationsに掲載:本研究の目標は,単一光子の非局所性検証(単一光子をある場所で測定した測定結果が,空間的に離れた他の場所へ影響を及ぼすか否かを検証すること)である.この課題は,100年近く量子力学の基礎の観点から多くの注目を集めてきた.ハイブリッド技術ならではの手法を用いて,これを実験的に実現した. (3) 上記の実験を発展させ,量子エラー訂正の研究の第一歩を踏み出した:量子エラーに向けて,平成26年4月より,二光子の重ね合わせ状態(時間2モード量子トリット)の量子テレポーテーションの実現方法の検討を始め,10月より実験システムの構築を始めた.平成26年12月には実験システムが一通り完成し,狙った二光子の重ね合わせ状態を生成できていることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ハイブリッド型量子情報処理を実用化へ向けて,単一光子の連続量量子テレポーテーション装置を高精度化する方法を開発し,世界で初めて実験的に実証した.さらに,ハイブリッド型技術を用いて量子力学の基礎論の観点から価値のある単一光子の非局所性を,世界で初めて実験的に実証した.これらの成果によって,ハイブリッド型量子情報処理を実用化は近づいたものの,さらなに発展を続けるためには「光子が失われることに対する量子エラーコレクション」が最重要課題であることが浮き彫りになった.そこで本研究では,光子数を増やすことで量子ビットの情報に重複を与え,量子エラー訂正を実現することを目指す.本年度では,その第一歩を踏み出した. これらは期待以上の大きな成果であり,研究の著しい発展があったと言える.
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今後の研究の推進方策 |
量子エラーに向けた,二光子の重ね合わせ状態(時間2モード量子トリット)の量子テレポーテーション(量子状態を転送するプロトコル)の実験システムが平成26年12月には実験システムが一通り完成した.今後は,「二光子の重ね合わせ状態(時間2モード量子トリット)の量子テレポーテーション」の測定を行いながらセットアップの問題点・改善点を把握し,改良を加える. この際,一番の問題となると考えられるのが光学系の長期的な安定性である.なぜなら,2光子を扱っているため,1光子の重ね合わせ状態(量子ビット)を扱っていた従来と比較して,イベントレートが下がってしまうからである.量子テレポーテーションを検証するためには,ある入力状態に対して多数回操作を行い,入力量子状態の情報を転送できたか否かを統計的に検証する必要がある.このためには,多数回量子テレポーテーションを行う必要があるが,入力状態の生成レートが低いほど,多数回量子テレポーテーションを実現するまでにかかる時間が長くなってしまう.ゆえに,2光子を扱っているため,1光子の重ね合わせ状態(量子ビット)を扱っていた従来と比較して,約30倍長く(数分→1時間)安定させる必要がある. 光学系を安定化させるためには,温度の安定化が最重要課題であり,これを実現するために冷房の数を増やし,冷房の風の流れを制御することを検討している.これに加えて,光学系の制御を自動化する.
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