研究課題/領域番号 |
14J10542
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
橋本 樹 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | トポロジカル物質 / ユニークな現象 / 超伝導 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,トポロジカル結晶絶縁体とトポロジカル結晶超伝導体の物性を統一的に理解し,従来のトポロジカル物質にないユニークな現象を明らかにすることである. SnTeは鏡映対称性によって保護された表面状態をもつ物質で、Inをドープした系は超伝導状態になることが知られている。さらに、コンダクタンス測定により、非自明な表面アンドレーエフ束縛状態が存在することが示唆されている。実験により表面状態の存在が示唆される一方で、これまで、この物質の超伝導状態における性質の理解は乏しかった。そこで私は、結晶の持つ対称性より実現しうるペアポテンシャルを導出し、表面状態の計算を行なった。その結果、鏡映対称性に保護されたこれまでにない分散を持ったアンドレーエフ束縛状態が実現することを明らかにした。従来の時間反転対称性により保護されたゼロエネルギー状態は時間反転対称点を動くことはできない。一方で、私が発見した、鏡映対称性に保護されたゼロエネルギー状態は鏡映対称線上を動くことができ、その結果、表面状態密度に従来のトポロジカル絶縁体由来の超伝導のものと大きく異なる構造が現れることを明らかにした。 このほかにも次のような研究を行った。トポロジカル絶縁体由来の超伝導体CuxBi2Se3はこれまでに発見されていない3次元トポロジカル超伝導体の候補物質として注目を集めているが、この物質がトポロジカル超伝導か否かは明確にはなっていない。最近、フェルミ面の次元が変化している可能性が実験により指摘された。そこで、私は、フェルミ面の次元変化が、超伝導ギャップ、バルク物理量に与える影響を調べた。その結果、フェルミ面の形状変化に伴う、超伝導ギャップとバルク物理量の変化は、実現しうる4つの超伝導状態によって異なることを示した。この結果はCuxBi2Se3がトポロジカル超伝導であるか否かを実験的に明らかにする重要な判断材料になると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、トポロジカル結晶絶縁体由来の超伝導体が特異な表面状態を形成し、その表面状態が従来のトポロジカル絶縁体由来の超伝導体の表面状態と大きく異なる性質を持つことを明らかにした。このことは、従来のトポロジカル物質にないユニークな性質を明らかにするという目標に対して一定の成果を上げたといえる。また、トポロジカル結晶絶縁体由来の表面状態が超伝導状態における表面状態に強く影響を与えることを明らかにした。つまり、トポロジカル結晶絶縁体とトポロジカル結晶超伝導体の物性を統一的に理解するという目標に対しても一定の成果をあげたといえる。以上の理由からおおむね順調に進展していると回答した。
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今後の研究の推進方策 |
結晶の持つ対称性に保護された表面状態を持つ物質に対する研究は世界中で広がりをみせている。最近になり、ワイル半金属、ディラック半金属という物質が超伝導状態になったとき、トポロジカル結晶超伝導状態になる可能性があることが、理論と実験の両方から指摘された。ワイル半金属やディラック半金属はこれまでのトポロジカル物質同様に、常伝導状態で非自明な電子状態をもつ。このことから、超伝導状態においても新奇な現象が発現することが期待できる。今後はこれらの物質群に対しても研究を行うことにより、結晶の対称性に保護されたトポロジカル物質の物性を統一的に理解する。また、物理現象の理解にとどまらず、結晶の対称性に保護されたトポロジカル物質の応用についての研究も行う。
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