原子核物理学の分野で最初に提案されたスキルミオンと呼ばれるトポロジカルな場の配置は,今日,磁気スキルミオンとして磁性体中で実現することがわかっている.磁気スキルミオンは,カイラルな結晶構造を持つ磁性体や多層磁性体などの空間反転対称性が破れた系で広く観測されている.カイラルな結晶構造を持つ磁性体の3次元バルクでは,2次元のスキルミオンが外部磁場の方向へと積み重なったような構造ができており,それは糸のような形状をなすため,スキルミオンストリングと呼ばれる. 我々は,スキルミオンストリングに局在し,ストリングの伸びる方向へと伝わるマグノンモードについて理論的に研究した.マグノンのスペクトラムは解析的に計算され,マグノンの連続スペクトラムの下に2つのモードがあることが判明した.それは,ブリージングモードと並進モードである.これらのモードは共に非相反性を示す.すなわち,マグノンの伝搬方向に依る非対称性が現れるのである.特に,ブリージングモードは分散関係にてkの1次の項を持ち,強い非相反性を示す.(一方,並進モードは南部・ゴールドストーンの定理によりkの1次の項を持つことは禁止されている.)これに伴い,ブリージングモードはk=0,すなわちストリングの方向に一様なブリージングでさえもエネルギーを1方向に運ぶことがわかった.我々は数値シミュレーションも同時に行い,以上の解析な結果が数値計算の結果と一致することを確かめた.以上の我々の結果はスキルミオンストリングという磁気テクスチャを用いた1方向熱チャネルの設計を可能にするものであり,応用上も興味深い.この結果は今後論文にまとめる予定である.
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