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前年度は，有機無機ペロブスカイト構造の一種であるmethylammonium lead iodide (MAPI)に注目し，その熱伝導特性における効率的な抑制機構において，有機分子の回転運動，および有機無機相互作用が重要であることを明らかにした．本年度は，その機構に基づく熱伝導制御に向けて，以上の議論をMAPIの類似構造に展開することを考えた．多様な構造に対して逐一力場開発をともなう熱物性解析を行うことは現実的でないため，異なる組成に対して既知パラメーターを体系的に拡張する方法論の創出を，今回の達成目標とした．
基本的な拡張工程としては，MAPIについて得られたパラメーターを初期値とし，第一原理計算及び実験結果に対するエラーの最小化を行う．フィッティングの目的変数には，第一原理計算による体積膨張および内包分子の回転にともなうエネルギー変化，そして実験から報告された格子定数および相転移温度を採用した．力場関数には，先行研究の中で最もパラメーター数の少ないMYP型を採用し，拡張精度の検証には，アニオン置換構造であるmethylammonium lead bromide (MAPBr)を採用した．
検証の結果，拡張した力場は，目的変数であるエネルギー変化や相転移温度に関して，拡張元であるMAPIと同等の再現性を達成した．また，力場に基づくMAPBrの振動解析を行ったところ，熱伝導に重要な低エネルギー領域の基準振動が，MAPIよりも高エネルギー側にシフトしていることがわかった．この傾向およびシフト幅は，実験におけるラマンスペクトルの結果等とよく一致していたことから，提案した拡張方法は，類似構造の熱物性解析に対して十分に有効であると考えられる．以上の議論を，幅広いMAPI類似構造に適用することで，有機無機相互作用を利用した，可制御性の高い材料設計を行うことが可能になると考える．
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