研究課題/領域番号 |
14J10600
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
馬場 翔二 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 半導体量子細線 / ジョセフソン接合 |
研究実績の概要 |
前年度に測定を行ったNb-InAs量子ドットの伝導特性・超伝導電流についての論文を執筆・投稿した。 また、次なるサンプルとして、従来のInAs自己形成ドットのサンプルから移行する形で、超伝導-InAsナノワイヤー接合のサンプルの作製に取り掛かった。平行に近接した二本のナノワイヤーに超伝導体を接合することで、広い接合面積と良好な伝導が期待できる。また、将来的な干渉実験やスピン操作実験に向けても有用な系である。本年度は、InAsナノワイヤーに常伝導体電極を接合し、ナノワイヤーをドットとして制御することを目的とした。接合の直下にCVDによって成長したSiN層(35nm)で隔たれたフィンガーボトムゲートを作製したほか、表面の接合近辺に複数のサイドゲートを蒸着した。 まずは単一ナノワイヤーのサンプルを作製・測定し、ゲート制御性とピンチオフ特性により量子ドットとしての機能を確認した。 また、二重ナノワイヤーを常伝導体金属でコンタクトしたサンプルを作製・測定した。二つのナノワイヤーの距離が比較的遠い(300nm程度)サンプルにおいては、トンネル結合や静電結合は確認できなかった。しかしそれぞれのナノワイヤーをバックゲートおよびサイドゲートによってある程度独立に制御することができ、またいずれも量子ドットとして動作させることにも成功した。次に作製したナノワイヤー間の距離が非常に近い(100nm以下)のサンプルにおいては、両方のナノワイヤーに由来する並列二重量子ドットの形成に成功した。一部のゲート領域ではハニカム型の共鳴ピークが観測された。これは両ドット(ナノワイヤー)が十分に近いことを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最終目標であるクーパー対分離実験と、分離後電子対のスピン検証・操作を目指していくにあたって必要な技術であるInAsナノワイヤーを用いたジョセフソン接合の作製技術を確立し、また並行して各種超伝導体の特性評価を行うことに成功した。最終目標の実験を行うための技術的要素は揃っており、これはおおむね順調に研究が進んだことを意味している。
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今後の研究の推進方策 |
InAsナノワイヤーを用いたジョセフソン接合を作成し、クーパー対分離実験やスピン検証・操作実験を行う。 また、新たに興味深い研究対象としてマヨラナ粒子を視野に入れ、実験を行う。必要な試料や技術はクーパー対分離実験用試料に用いるものと類似しており、それほど大きくない労力で新規性の高い実験を行うことが出来ると期待している。 同様に新たな研究対象として、quartetと呼ばれる電子状態を探求することも視野に入れている。ナノワイヤーに超伝導体電極を3つ蒸着したようなサンプルにおいて左右の電極に対称にバイアス電圧をかけると、中央の電極で分裂した2対のクーパー対が左右の電極に輸送される過程が起こると期待される。この際、各電子はもともと対を成していた相手の電子ではなく、もう片方のクーパー対に由来する電子と再結合する。このことから、左右の接合において超伝導コヒーレンスが保たれた非局所の輸送過程が生じていると言える。これはいわばクーパー対分離実験の応用であり、現時点までに培われた技術を活かして試料作製・実験を行うことができると期待される。
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