研究課題/領域番号 |
14J10609
|
研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
福田 桃子 明治学院大学, 文学部, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
キーワード | プルースト / 演劇 / 舞台芸術 / ゴンクール / レジャーヌ / オペラ / ポール・エルヴュー / 19世紀末 |
研究実績の概要 |
本研究課題の採用1年目にあたる本年は、主に「プルーストと舞台芸術」を実証的・総合的に研究するための基礎作業に費やされた。具体的には①プルーストの作品中で言及されている作品②プルーストが実際に鑑賞したことが明らかになっている作品③プルーストと親交のあった人物(作家・劇場関係者・女優等)がかかわった作品④プルーストが影響を受けた作家や批評家が言及している作品⑤当時の新聞・雑誌で話題になった作品、という条件でコーパスを洗い出し、各作品の詳細をおもにフランス国立図書館が運営する電子サイトGallicaで調査した。上記の⑤にかんしては資料の量が膨大であるため、検索の方法等も工夫しながら次年度も調査を続けていく。 プルーストが劇場に日参していた19世紀末に隆盛した自然主義演劇および象徴主義演劇は現在顧みられることが少ない分野であるが、ゾラやゴンクール兄弟をはじめ、19世紀後半から世紀転換期の作家の多くは自らの小説の戯曲化やオペラ台本の執筆などを通して舞台芸術にかかわっていた。プルーストによる19世紀小説の受容にかんする研究は数多いが、プルーストが19世紀小説を戯曲・オペラを介しても受容していたという点はこれまで看過されてきた。そこで、10月25日に広島大学で行われた日本フランス語フランス文学会においては戯曲版『ジェルミニー・ラセルトゥ』を中心に、同時代の舞台芸術や女優レジャーヌと作家の関係を検証し、『失われた時を求めて』のいくつかのエピソードの再解釈を試みた。また、これまでプルーストへの影響が看過されてきたポール・エルヴューやモーリス・ドネ等、世紀転換期の新聞・雑誌の調査をすすめたことも今年度の成果である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた、世紀転換期の新聞・雑誌の基礎調査は、フランス国立図書館の運営する電子サイトGallicaで参照可能なものについては順調に進行した。フランス国立図書館・パリ国立古文書館・オペラ座図書館等に所蔵されている世紀転換期の舞台芸術作品のパンフレットやプログラムにかんしては、2014年度中に調査が叶わなかったため、今年度の調査滞在の際の課題のひとつとしたい。 「演劇を介した小説の受容」は従来の文学研究および演劇史研究では看過されてきた側面であるが、2014年10月の日本フランス語フランス文学会において、ゴンクール兄弟による『ジェルミニー・ラセルトゥ』の戯曲版をプルーストがいかに受容したかを検証し、問題提起を行うことができた。プルーストによる受容の検証を通して、世紀転換期の舞台芸術について新たな視点を提出し、当時の作家・俳優・批評家の再評価を促すことも本研究の目的のひとつであるが、モーリス・ドネ、ジュール・ルメートル等にかんしては新たな知見を得ることができ、こうした研究の成果は2016年にフランスで刊行される著書にも取り入れている。
|
今後の研究の推進方策 |
2014年度の調査の成果をもとに、舞台芸術関連の固有名(作家・作品・批評家・出演者等)を手掛かりに『失われた時を求めて』および初期作品を分析する作業を進めていく。19世紀末の複雑な文学風土を「デカダンス」とひとくくりにすることなく、「舞台芸術」を手掛かりに、プルーストによる19世紀末文化の受容について新たな視点の提出につとめる。とりわけ、メーテルランクをはじめとした象徴主義演劇とプルーストの関係の調査には力を入れていく。また、プルーストによる劇評および俳優論の分析や、ジュール・ルメートルをはじめとした世紀転換期の批評家との関係も掘り下げる。加えて、これまで豊かな研究の蓄積がなされてきたプルーストによる諸芸術(絵画・音楽・建築等)の受容と、こうした芸術が出会うところである舞台芸術との接点を探る。 2015年度は、夏期に一ヶ月程度の夏期滞在を予定しており、Gallicaにて参照不可能であった資料を中心に調査・複製を行う。草稿段階における固有名の解読については、和田章男教授編纂の草稿帳75冊の固有名索引(2009年)を参照することに加え、フランス滞在中に、パリ近代草稿研究所(ITEM)のピラ・ワイズ氏の協力を得ながら精査を行う。
|