研究実績の概要 |
本研究では、植物の大規模代謝シミュレーションシステムの開発を目指した。実験値から代謝の絶対定量データが得られないという前提のもと、遺伝的アルゴリズム(GA)の一つである分散遺伝的アルゴリズム (DGA) を用いた、計算のためのパラメータを推定するアルゴリズムの実装と、大規模クラスタ計算機環境での実行を可能とするシステムの実装を行った。 これらの実装の後、GAを用いた代謝データの再現計算(Plant Cell Physiol, 54:728-739 (2013))と同様に、モデル植物シロイヌナズナの代謝実験データ (代謝物数268、計測時間数11) の再現計算を行なった。まず、質量分析データを元に、異なる2つの状態の変化をPCA解析により定義した。これは植物体の培養の前半、後半と対応する。これらの期間中に統計的に有意に変化した代謝物のリストを用いて、代謝経路データベースAraCycに登録されているデータから、サブネットワークを抽出した。次に、開発したシミュレータによって、このサブネットワークと実験データを入力として、各代謝物の初期濃度と、各反応の実験前半と後半の計2セット分の反応係数との計171個のパラメータを推定した。それらのパラメータを用いてシミュレーションを行い、代謝実験を再現した。シミュレーションの結果と実験の結果がどれだけ近いかを評価する適応度を定義し、GAとDGAそれぞれを用いた場合のシミュレーション結果を適応度によって評価した。その結果、DGAを用いた場合、GAを用いた場合よりも実験の再現度が高い傾向にあることがわかった。また、植物体培養の前半と後半で、代謝ネットワーク内において有意に速度が変化した反応を選択したところ、選ばれた反応は代謝ネットワーク内に存在する反応のうちのごく一部であることがわかった。
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